窓あけてなお晴天
さて泥もあまるほど塗ってしまった。
やり切ってしまわねば損である。
こう謎の損得勘定のはたらいた。
高級マンションのまえまで、泥まみれ三人と、猫女もどってくる。
臭く汚れの固まった姿に、マンションおびえた。
「なんですか、あなたたち、まさかこの綺麗な私を汚そうって」
「もう引き返せないところまできてしまったんだ」
升壱は言い、マンション、でんと建っているくせにたじろぐ調子。
「みなさんへなにかしでかしてしまいましたか」
「別に」
「ではなぜこんな卑劣な」
「どっちにしろシャワーは浴びたいんだ」
三人とも泥の滴る。
また乾いてきたのが土っぽくなって剝げていく。
マンションすると息吐いておちつく。
「まぁ私は自動掃除ロボット完備で、汚れすぐさま除いてしまいますのでご安心を」
衝撃らしくメクのおどろいた。
「そんなズルな!」
「なんのために私ら汚れたのよ!」
タマツ、頭みだれるだけ掻きまぜ土のぽろぽろ。
さらに納得ならないメクの、怒った。
「こうなったらウット、修行の成果でやってしまえ!」
主から言われ、
「やってやろう!」
と誠実であった。
まずマンションの角で、爪のたてる。
爪とぎのはじめる。
ガリガリやれば、いくら硬かろうも綻びた。
研げばとぐだけ、鋭利であった。
鋭利で磨けば、綻ぶ。
綻べば磨かれる。
この循環で、マンションまたたくうち、体裁の削られていく。
「なにするんですか痛い痛い」
と悲痛であった。
ガリガリ。
そうやって終わってみれば、時間食ってもう帰るカラスの鳴きはじめ。
天高かった建築の、瓦礫山なっていた。
この瓦礫山へかぁかぁと止まって、建物だった山のしゃべらない。
土まみれな三人のうちよころぶのひとりだけ。
「やったぁ、庶民派の勝ち!」
がっかりしたほかふたりだった。
「隣人もシャワーも恵まれないとはな」
「私、これからどうしたら」
とぼとぼ帰り始めたふたりへ、メクからあった。
「あと私、世話するのめんどうでウット、そっちで飼っといて」
余計がっくし。
軽やかで猫女のついてくる。
「厄介な荷物だけ増えたな」
「私どうすれば」
「いよいよ俺の家くるか?」
「え?」
タマツは背筋すっと伸びた。
「猫の飼う世話係にもってこいだ」
「わけでちょっと嫌だけど、いいの?」
「あぁ、めいわくかけて忍びないからな」
こうしてタマツの幸せに跳ねた。
また帰路のさなか、あのもぬけの空き家へ通りかかると、もう無礼だった。
「おや、あの冷やかし連中じゃないか帰った帰った」
「別に住んだりしないさ」
升壱が疲れた手の振った。
「だから帰んなよ。あと用心しなさいな」
「用心って?」
「カラスに聞けば近ごろ高級マンションだって潰れたそうだ」
「あぁ知っている」
「なんでも高級思い出なんて言って洗脳装置つかって居住ふやそうとしたんだと」
「はぁ」
「でも発覚して、いまじゃ瓦礫の山んされたそだよ」
ふたりして、鋭利かつきれいなった爪に満足そなウットをみた。
「そんなおっかいのがいるのだ。あんたらもせいぜい怯えなよ」
升壱またがっくしして、
「こんな世界じゃあ、なにがいいんだか悪いんだかもわからん」
と愚痴って夕暮れ。
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