泥の白球

 で、けっきょくみなメクへ付き合うので、泥沼。

 とり潰された家のあとで、その空き地に泥沼がある。

 ぐつぐつ煮えはじめような泡を立てている。

「いかにも不味そうな沼ね」

 タマツの青い顔で言う。

 というかなぜ今から住まうところを泥だらけにせねばいけないのか。升壱の思いである。

 ウットだと、沼の嗅いで鼻をおかしくして、背の反って生きているのがやっとそう。

 発案者だけあってメクだけ、なんの不味い顔もしていない。

 むしろ得意げで腕組み。

「では、みなさんで泥沼ずっぽり浸かったあとあの高級マンションまで走ろう!」

 おぉおお! 賛同のこぶしメクだけであった。

 蝉のわんわん夏をかき混ぜる。

 まずタマツからあって、

「いや、なんで家よごすの?」

「入ってみて、すぐわかったから」

「なにが」

「あの家なんか、暮らしやすすぎてむかつく」

「笑っていうと、なお怖いね」

「庶民派の怒り」

「庶民派でも泥まみれにはならない」

「わかっていないな、タマツ」

「わかりたくはない」

「相手へ攻撃するとじぶんへ返ってくる」

「珍しくまともに考えれている」

「それの先読みで、もうこちらも先んじて報復を受けておく」

「そんなでたらめしてどうなんのよ」

「相手の許してくれる」

「そんなあほな」

 と女ふたり言っている間で、升壱が裸足になって、ズボン裾あげている。

 慌てたタマツの制止があった。

「納得してんじゃない!」

「納得はしないが、メクの言うことだしな。しかたない」

「あんた、メクへ盲目すぎでしょ」

 制止ふりきった。

 タマツもここで仕方ないなぁとなった。

 盲目の連鎖である。

 嫌々でも、裸足。

「頑張れ」

 メクそうふたり見送って、卒倒したウットの頭なでている。

 タマツ、怒号。

「なんであんたがやらないの」

「えぇ、汚れるのやだ」

「入れ!」

 風呂嫌いの子をひっぱっていく親の図であった。

 こんな争い尻目で、升壱もう沼へ足の付けた。

 足湯みたいにしたあと、縁でかがんで、手もつける。

 この背に、後ろの争いがぶちあたる。

 三人そのまま、沼へどっぷり沈む。

 でてきたときにはすっかり泥まみれ。

 気の付いたウットは有り様みて、抱腹絶倒あははは。

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