吹いた息の熱風へまざった

 升壱のべつで猫をさがさなくてはいけない。

 なのに、家無し娘と、えせ猫女の付いてくる。

 かたや屍の動いているようだし、かたや暑さでうへぇ俯いてついてくる。

「なんでついてくるんだよ」

「家なくしたから、責任とってよ」

 屍の霊魂ぬけそうな溜息。

「家のないんだから飼ってよ」

 暑さでだらしないえせ猫。

「家さがしならよそでやれよ。猫さがしなんだよこっちは」

 ふたりへ言っていると、

「ごめんくださいされます。じゃあ僕に住んでみますか?」

 横合いから声。

 向けば明らかな空き家で、木造で屋根低い。

 雨風で傷んでいた。

 窓から戸へ風の筒抜けだった。

 ここら新築ばかり。

 そこへむかしの長屋の一角がぽつんと生き残っている風情だった。

 いやこれにせよ、もぬけの殻で屍である。

 それがずいぶん売り込み口調で喋っていた。

「扇風機なら動かないけど完備してありますよ」

「いらない」

 屍へ屍然たるタマツは首の振った。

「ささくれているけど畳だって六畳は完備してある」

「思い出とかないよね」

「え?」

「私あの家で十年よりもっと住んでた。その思い出」

「そんなもの完備できません。冷やかしなら帰った、帰った」

 家の怒鳴ってくる。

 撃退されたような体裁ながら、みごと勧誘撃退である。

 なお歩きながら、升壱のなんとかふたり引き離そうとする。

「まぁ、けど世のなか空き家なんて問題なくらいあるんだ」

「だからなによ。それで私の家うばっていいの?」

「元気だせよ。星の数ほどあるんだよ」

「そんな恋愛みたく言われても」

「ならうち来るか?」

 タマツは升壱にぎょっとデメキンの顔であった。

 そんな顔で立ち止まって、ほかふたりせよ止まった。

「じょ、冗談やめてよ」

「よく考えれば元凶は俺だ」

「いやよく考えなくってもそうだけど」

「つぎいい家のみつかるまで、めんどう見るべきだ」

「ほんとう?」

「顔のひっくり返ったみたいに嬉しそうになったな」

「だってひとつ屋根の下ってことでしょ!」

「両親も宇宙人からさらわれて、部屋も余っている」

「地底人にさらわれた私のいうもんでないけど、苦労だね」

「こうなったら助け合いだからな」

 ここまで言われたタマツのじれったく身の捩って照れていた。

「えぇ、でも、さすがに飛ばしすぎててぇ。もうすこし考えてぇ」

「そうだな。男と一緒だと嫌だな。ちゃんと家の探そう。手伝う」

 あっさり升壱は方角の変えた。

「いいや! 住ませてよ!」

「思い出とかないぞ」

「そんなんこれから作れば星の数だけあるって」

「思い出だいじにしろよ」

「それにさ、どうせいいとこなんて見つかんないって!」

「ごめんくださいされます」

 また横合いから勧誘であった。

 見れば天にも昇ろう新品なマンションである。

「わたくし、高級タワーマンションなんですけど、無料で住みませんか?」

「あ、タマツみつかったぞ」

「高級防犯、高級キッチン、高級トイレ、高級空調、高級ベッドなどいっさい完備」

「すげぇ! またとない家だな」

「しかもいまならば、高級思い出もおつけします」

「なんだそれ」

「入居者さまの脳から記憶を情報とし受け取り、その家の再現する機能です」

「おもいで完備だ。しかも無料だろ」

「えぇ、入居者あまりいなくなってしまって寂しいのでいっそ無料で」

「でもこうなると怪しさも備えついているなぁ」

「お客さま、よく考えてください」

「考えるほどうまい話には裏がある」

「わたくし、高級マンションですよ。お金持ちですよ。マンションですよ」

「だから?」

「金持なのでお金に困っていません。なにより、建物なのでお金つかえません」

「なるほど、金持ちの道楽だ」

「せめて使えるとして、入居者のためだけです」

「なっとく」

 あらためて升壱、口あんぐりしたタマツへ。

「タマツ、よかったな!」

「よかない!」

「私、あんたの家住む気まんまんだから!」

「でもこんないい家……」

「ぜったい、あんたのところへ住む!」

 強情張られ、こわくなったので升壱、ならいいけど。

 すると玄関からだれかでてくる。

 メクだった。

 で出てきたメクを、ウットは呼ぶ。

「あぁ、主人、こんなところで」

「あれウットだ。なにやってんの?」

 親しく話しあう猫と主人らしい。

 置いてけぼりなほかふたり、ぽかぁん。

「主人が修行のためって段ボールにまとめて出ていかしたんでしょ」

「そうだっけ」

「やだなぁ。ところでここ引っ越したの?」

「うん、がらんがらんだったから、情けぶかくなちゃって」

「さすが主人だなぁ」

「で、いまから泥んこ遊びしてこのマンションよごす遊びするんだ。手伝って」

「お、いいねぇ。付き合いますよ」

 置いてけぼりの升壱ここで、タマツへ言う。

「タマツ、俺ここ住むので、おまえへ俺の好きに家つかえ」

「え?」

「メクとお隣さんになれる機会だからな」

 言われてタマツは悔しげ歯ぎしりした。

 それから思いっきり、

「私もここに住む!」

 泣きべそながら、きっぱり言い切った。

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