尻尾わすれた猫

 やってまいりましたはタマツの家。

 呼び鈴、本日も好調で、

「旦那さんとっかえひっかえ、いい身分ね」

 タマツの玄関あけるなり、猫女とっと入ってしまう。

「ちょっとなに」

 と言われても気にしなく、侵入していく。

「二階建てかぁ、階段であそべていい。ただこの材木だと爪とぎ難しい」

 百点中、四十点の家だ。と勝手な採点だった。

「なんなのこの人」

 あとから升壱の入って、すまないと手を合わせる。

「猫だ」

「はぁ?」

 居間に移りながら、かくかくしかじか。

「わかったか?」

 升壱からタマツは目の背けて、

「まぁ、その、たとえあんたが女を猫扱いする変態でも友達だよ」

「わかってないな」

「だって、あれ猫の耳ないよ」

 指さされる当人、なんだか居間の内見している。

「髪で隠れていたの見せてくれたが、人の耳だった」

「猫っぽさないじゃん」

「態度だと猫らしくも」

 すると猫女、今のソファーどっかり。

 足組んで我が物顔。

「あぁいらしゃい、私、猫のウットこれからよろしく。四十点のとこだけどてきとうに座りなよ」

 こう見聞きし、

「猫っぽいだろ」

「だとしたら私、ねこ嫌いになるわ」

 ふたり感想。

「というかなんで私の家なの?」

「あれ猫ですってメクまで持っていって嫌われるのまずい。お前で毒味だ」

「うすうす思っていたけど、あんたってけっこう酷い」

 白い目であった。

 するとウットから、

「なにこそこそしているの、気楽にしてきたない地べたでもささ座ったら」

 にこやかでも、失礼の忘れない猫である。

「てかさっきからなんで自分ちみたいなの?」

「だめ?」

「ここ私の家!」

 ウット、ふところからなにか取り出してタマツのまえへ恵んでやるよの意気で放る。

 木の表札で、ウットと粗く彫られている。

「ほら、やってきてよ」

「なにをよ!」

「かけかえてきて」

「乗っ取るつもりか!」

 出てけ、とタマツが表札の投げる。

 首だけで避けて、猫女あくび。

 それからおもむろ立ち上がって、そばの壁のまえ座りこむ。

 で、鋭く爪伸ばし壁のがりがり爪とぎ。

 ガリガリ、ガリガリ。

 しだい壁の抉れていく。

 抉れの酷くなっていく。

 窓へ差し掛かっても窓まで削っていく。

 食器棚とておかまいなし。

 家電すら爪に食われ、また壁の虫食い。

 柱も齧られたようになる。

 呼び鈴も年貢のおさめどき。

 やがてさっぱりタマツの家の更地だった。

 家の搾りかすよなのが、更地で山積みだった。

「お邪魔しました」

 綺麗なった爪なんとなく眺めながらウットは去ろうとし、タマツは、

「ちょっと待って!」

 青ざめて引き止める。

「私の家!」

「出てけっていうから腹いせに」

「ぜんぜん取り繕わないのね!」

「いや、爪きれいになった。ありがとう」

「ごめんなさいをせめて言え!」

「ごめんなさいより、にゃあを多く言える猫でありたい」

「いま人でしょうよ!」

「いいじゃん家の一軒、二軒、だれも困らない」

「私こまっているけど」

 すると仕方ないなの溜息で、また懐からプラスドライバー放りだす。

「ほら、これで直しな」

 もう言い返す気力うちくだかれ、タマツ膝から落ちた。

 めそめそ涙こぼして惨めだった。

 そこへ寄り添うよう、升壱なるべく優しい声で、

「タマツ、大丈夫か」

「わ、私の、家は、電池式のおもちゃじゃないぃいいい!」

「まぁ元気出せよ」

「じゃあ、慰めてよ」

 手でぐしゃぐしゃした顔で見上げられ、升壱の微笑んでやる。

「お前のおかげで、やはりメクやってはならない猫だとわかった」

 毒味ありがとう。その言葉で、タマツはさらに無様で泣けた。

「ああああああ! 酷いぃいいい!」

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