汗で自惚れた太陽

「負けた。おおかた泣き落としで負けた」

 升壱がっくし。

 タマツの背中たたいて励ます。

「まぁ、良心は守れたよ」

 三つ子がタマツのまわり来て、

「さてイミテーションさん頂き!」

 メクと同じ要領でさらってしまう。

 励ましなくただぽつんとなった升壱。

 俺のけっきょく、こんなおかしな世界じゃあ誰も守れないんだ。

 自身のなかなにもかも諦めていくなか、一尖がりだけ帰ってくる。

「校長のお呼びだよ」

「校長?」

「なんでも屋上から運動会みてたらしくって、あなたへ興味のあるんだって」

「あってどうなる」

「一騎討の勝負して勝てば、みんな返すって」

 諦めていたの、巻き戻って甦る。

思い浮かぶのふしぎとタマツの姿であった。

「ここまで巻き込んで、約束までしたんだ」

覚悟で目のちからづよくなって鋭くなった。

「案内しろ」


 なんもない小学校の屋上。

 そこでタマツとメクがいた。

 タマツは尖がりふたりに囲われ、升壱を嬉しそう呼ぶ。

 メクならなにもなくどうどう腕組んで立っている。

 升壱は導いてくれた尖がった女の子へ尋ねる。

「校長は?」

「ほらいるでしょ」

 指さすところメクであった。

「え?」

「新任のメク校長」

「どういうことだよ!」

 メクがふ、ふふと不敵わらう。

「升壱どうやら私はカリスマだったらしい!」

 胸の張ってくるも、よけいわからない。

 ここで三つ子たちからあって、

「メクさんは我ら小学生おける英雄」

「凄まじい偉業の成し遂げた人」

「まさに勇者だ!」

「ということで校長になってくれと頼んだ!」

「そしてなってくれた」

「のりのりだった」

「私もちやほやした」

「至れり尽くせりやった」

「それでいまここまで調子に乗っている」

 升壱なんだか気抜けしながらも、

「偉業ってなんだよ」

 自身の誉れへの関心に、メクは得意みずから答える。

「犬の糞を踏んだ!」

 三つ子めいっぱい拍手。

 しかし少ないためか拍手いっそう静けさ誘う。

 メクこの寒暖差きづかない。

「さてこれほどの偉業の成した私と、お前は戦うわけだ」

「まぁ、負けでいいや」

 メク、ぎょっとなって、なんだと!

「これから私との蝉取り合戦なんだ!」

「じゃあ、あしたしよう。今日あるきまわって夏にくたびれた」

「えぇええ! 遊びたい! 遊びたい!」

 寝転がって、じたばた。

「さすが小学生へ見込まれるだけある」

 そうして升壱の屋上去りながら、

「まぁ無事どころか、元気でよかったよ」

 と言い残した。


 日の下がりだしでも真昼よな空模様。

 小学校あとにし升壱は家へ帰る途中だった。

 タマツが追いかけてきて、呼ばれる。

「お前にげてきたのか」

「つまんないって、メクが逃がしてくれたの。というかほってかないで!」

 よく汗のかいて力いっぱい走ったらしい。

「あといいの。あのまんまで」

「遊びあきたら帰るだろ」

「なんのために私らあそこまでしたの?」

「救うためだよ。けど危なそうどころか楽しそうだったし」

「なんなのよいったい」

「ほっとしたんだ」

「なにが」

「俺の好きになった人は、物静かだけどほんとうたまにああやって楽しく笑っている顔がいい」

 そういう人だったと懐かしく言う。

 聞かされて、唇の不満に曲げてぽつり。

「あんた、ドのつくほど一途ね」

「それにこれで明日のデートもできるわけだ。蝉取り合戦でもやれば楽しいさ、きっと」

「それが本音かい」

 夏のうだり、まだはじまったばかし。

 街の囲うよう入道雲もくもく。

 升壱とタマツこの暑く涼やかな光景へ。

「なんだかおかしいものに囲われて、私たちもおかしくなっていくのかなぁ」

「ま、そうなればそうなった悪くないのかもな」

 晴れがましさ、だれへも平等らしく降っていた。

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