蝉追夏

「電波塔の情報だと、メクはどうやらこの小学校へさらわれているらしい」

 升壱がそう言って正門くぐる。タマツもつづく。

 潜ったさきの運動場にて、あの尖がり三つ子だった。

 砂漠ような砂嵐一陣。

「何しに来た」

「メク返せよ」

「嫌だ」

「三千万なんて価値ないぞ」

「嘘だ」

「なんで子供のくせに金なんだよ」

「きらきらしているもの買えるから」

 考えまで鴉くさいな。升壱はどうしたものやら。

 そこでこんどタマツが目高のあわせて優しくした。

「いい子だから返して」

「お姉さん、美人だね」

「あらありがとう」

「でも香水濃いし化粧濃い。でも私たちイミテーションでも光っているなら好きだよ」

 笑顔へ青筋のヒビ。

「あらありがとう。いちおう私けっこうすっぴんでも美人で通っているよ」

 すると三つ子でひそひそ話し始めた。

「井の中の蛙大海を知らずだね」

「大海の知らなくっても優しい嘘くらい知っておかなきゃね」

「よしなよ。どうせ美人くらいしか取り柄のないんだ。その自尊心は守ってあげよう」

 当人へ筒抜けである。

 もう青筋飛ばして泣きそうで、升壱まで戻る。

「今日は張り切ってメイクしただけ、みんな心から言ってくれていたの!」

「なんの言い訳だよ」

 埒あかない。相手の子供とあって、まともなふたりだと強行しかねる。

 で、三つ子どうやら察してくれて、

「しゃあなしで、運動会で決着しよう」

 とくる。

「運動会ってなによ」

「ふつうに三つの競技して、買ったほうがメクさんを貰う。あなたたち対、ここの全校生徒でね」

「わかりやすくて結構だ」

 升壱の納得し、タマツそういかない。あいて聞こえぬよう密談。

「ちょっと勝ってるわけ?」

「俺は運動なら並みだ。しかしお前ならうちで一番うえだ」

「むこうアマテラス論の影響あるんでしょ」

「さすがに小学生だぞ」

「公算あますぎでしょ」

「やって損のないだろ」

 ここで追加で条件。

「あと、もし小学生の買ったらば、そこのイミテーションお姉さん貰う」

「いいだろう」

 よくないでしょ、タマツきりだし、ふたたび密談。

「うそ。いちおう友達どまりではあるよね、私たち」

「言い方へ棘だな。ただまぁ友達だぞ」

「友達売るのあんた」

「しかたない」

「仕方なくはない」

「たとい負けたとしてもいったん貸すくらいのものだ」

「貸すってなに? 取り返しにきてくれるの?」

「あたりまえだ。友達のためなら、何度だって挑んでやる」

 大まじめ言われてタマツたじろぐ。口もとだけで、

「あ、ありがとう。なら別に……」

 この友達と言ったおり、升壱の頭のなかメクがいた。

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