ビー玉のなかの涼しさ

「おかしいと疑られるのも嫌だし、付き合ってあげましょう」

 こうしてタマツから情報提供と案内。

「いいもの知っているからついてきなさい」

 案内されたところ、街にある電波塔。

 赤白塗ってあって、足元では首の折れそうなほど仰がねばいけない。

 それでこの電波塔がしゃべる。

「あ、タマツちゃん、こんにちは。今日の天気は晴れのち雨」

「こんぴんかんなのに」

 見上げるタマツも親しくした。

「そう、世のなか不条理」

 まぁ、こんな建物まで女ぽくしゃべるのだからなぁと升壱の思う。

「それでなにかよう?」

 かくかくしかじか。

「なるほどだわ」

「そこであらゆる情報の眺めている電波塔さんってわけなの。おねがい」

 タマツは愛想よく笑い手の合わせる。

 タマツはなぜ俺以外で、こう景気良いのだろ。もしかして嫌われているんだろうか。

 升壱は憶測の捗る。

「いいけど、ちょっとこっちも電波塔として、おねがい」

「私や升壱でできることなら協力しましょう」

「知恵借りたいってだけ」

「知恵?」

「そう身長の伸ばしたいの」

「へぇ、どうして?」

 出し惜しみなく熱心なタマツに、懐疑ふかまる。俺、きらわれるようなことしたか?

 そんな升壱ほっといて電波塔は話を進めた。

「あそこに見える新しく出来た赤白の電波塔あるでしょう」

「あぁ、私らの背じゃ見えないけど、いっちゃん高いやつね」

「私もう二番目なわけよ」

「十メートル違うんだっけ?」

「十㍍と三違うの」

「で、そのほぼ十メートルで負けて悔しいと?」

「十㍍と三は悔しい。せめて十㍍と二」

「あんまり変わらないけど」

「十㍍と四でも可」

「けっきょく十㍍と三が嫌なだけでは?」

「とにかく伸ばしたいの! 腹痛になっても牛乳を飲む覚悟よ!」

「きっとあんたに効果ないでしょ」

「やだ、腹痛だけなんて」

「腹痛もないでしょうよ」

 升壱、考える。そしてひらめく。

 タマツのほうでは、悩みなやみ。

「電波塔さん、もういっそ向こうを縮める方向で考えたら」

 すると電波塔はそれ名案。

 どっこいせ、と電波塔の動き出す。

 足元の柱で四つ足の恐竜みたくどしどし歩む。

 街にあった建物ふみあらしつつ、どこかへ。

「なぁタマツ」

 升壱はタマツのじっとみつめる。

「な、なに?」

 まだ見つめる。

 タマツまた沸騰してくる。

 見つめる、見つめる。

 きゅぅううううと薬缶のような音が出そうで、またそっぽ。

 電波塔はどしどし帰ってくる。

 もとのところでどっしり収まる。

「はぁ、てっぺんでてっぺん叩いてやったら同じくらいになった」

 すっきりと落ち着いた。

「で、タマツちゃん、お願されてたこと教えるわ」

「お前って、俺のこと嫌いだろ」

 タマツ、はぁ? と冷めた。

「すまないな。さすがに二人だけでも嫌いな奴は無理だな」

 升壱ちょっと笑いつつ平謝り。

「あとなんか気に入らなかったら言ってくれ」

 友達だし改善したい、升壱は心底まじめである。

 そこまで言われタマツは面の貼ったようなにっこりで電波塔へ。

「ごめん、やっぱり情報いらない。私かえる」

 踵の返して速足。

「あ、俺は情報いるんだ教えてくれ」

 速足そそくさ、そそくさ、そそくさ。

 升壱の気にしず、うんうん情報もらう。

 そそくさ、そそくさ。

 そそくさ、振り返ってそそくさ、そそくさ。

 升壱の気づく。元気で手の振って、

「またな。タマツ、ありがとう! 気の向いたら声かけてくれ!」

 また踵返して、そそくさで升壱のもとへ帰ってくる。

 帰ってくるなり、鬼形相で胸ぐら掴む。

「引き止めてよ!」

「だって嫌いなんだろ?」

「嫌いじゃないわよ」

「じゃあ、好きってことか」

 ぱっと胸ぐらの放して、その場で俯く。唇とんがらせ、ぼそごにょ。

「そ、それも違うけど」

「じゃあ普通か」

「十㍍と三ってあったら、四くらいっていうか」

「お前もうやはりまともじゃあなくなって」

 赤い顔もたげて言う。

「そういうあんたのどうなのよ!」

「俺は普通だと思うけど、精神的に安定しているし」

「そこでなくって、私をどう思うの!」

「普通だけど」

 聞かされた途端しょぼくれて、すこし涙目でから笑い。

 タマツ、夏の遠いところいる高い入道雲をみつめた。

「そっかぁ。私だけなんだ。孤独だなぁ」

「お前はひとりじゃない自信もて、とにかくメクだ」

「孤独だなぁ」

「恋は孤独ってわけねぇ」

 知ったげで、電波塔のてっぺんあたり頷いていた。

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