薫風、枯れ葉けちらし
まず聞き込み。
といえ、アマテラス理論でしっちゃかめっちゃかな世界である。
嘘も真実もないまぜな世界で、携帯端末なぞ役立たず。
なので足で稼ぐ。足の数で稼ぐ。
日の照りつけるなか、汗ぬぐいぬぐい。
ある民家のまえ。
呼び鈴鳴らした。
「いやねぇ、どこ触ってんよ」
魅惑ある粘っこい声で鳴った。
少女の出てくる。
頭の横でまとめた金髪だらり右肩へ垂らしている。
無表情だったのが、ぱっと一瞬かがやき、すぐ隠すよう萎む。
「あぁ、升壱、どうかした」
同級生で、アマテラス論へ耐性あるすくないひとり、餡咲タマツ。
「あのさ、タマツちょっと手かしてくれ」
「なに一大事?」
「実は」
かくかくしかじか。
「なるほど、嫌、かえって」
「メクとは友達だろ」
「今をもって絶交するので帰って」
「ついにお前もアマテラス論に」
「やられとらん」
ためしにもう一度、呼び鈴。
「あらお二人さん、痴話げんか? そんなのより楽しいことしましょう」
「黙ってよ! この破廉恥め! だいたい呼び鈴で意思もってんじゃない!」
「まともだ」
升壱わからなく、悩む。
「友達おもいのおまえがなんでそう突っぱねる?」
「というかこうおかしい世界で、デートなんてあんたこそ正気じゃないんじゃない?」
「向こうから誘われたからな」
「なら私の誘っても行くわけ」
「そりゃ友達だからな」
「はっきり言わないでくれる!」
また疑惑だから呼び鈴。
「そうよ! 恋心って繊細なのよ! でも鈍感な人にはがつんといってやらないと!」
「でたらめ言うな! こんどカメラつきのいい呼び鈴に買い替えるわよ!」
火でも着いたような顔だった。
「やはりまともに風邪のひいているだけか、じゃあゆっくり休め」
「元気よ」
「なら、手伝ってくれ」
升壱あたまさげて、実直であった。
タマツふんと頑張ってそっぽ。
「こんな世界だ。お前しかいないんだ」
なお、そっぽ。
「知り合いのみなおかしくなって、さいごお前だけまともだった」
なお、つん。
「これは運命だ。もう俺はお前のいなくなったらひとりこんな世界で堪えられない」
升壱はつぎの言えない。
あいかわらずそっぽながら、真っ赤な耳よく傾けてくる。
「あの、もうちょっとそういうのほしい」
「もうちょっとってなんだよ?」
「こう決定的というか、あんたにとっての私ってねにか的な」
「友達だけど」
ああああああ、と癇癪。
ついにおかしくなったかと呼び鈴。
「さっきから聞いていれば、じれったいわねぇ。俺にはおまえが必要だくらい言えないのかしらん」
呼び鈴した戯言へ、タマツついに拳の加えた。
夏と関係のない熱で、蒸気のでそうな少女であった。
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