天テラす理論

外レ籤あみだ

夏で蝉のあらし

あまてらす

 その夏、すべておかしくなった。

 もはやこの世界は、なにがおこってもおかしくない。

 またなにがおこってもおかしい。

 蝉の声がぐあんぐあんする夏のはじまりに。


 升壱しょういちは夏のうだっているなか待っている。

 公園のベンチの木漏れ日へ腰かけて。

 切った前髪のなんだか様なってなく気になった。

 待ち遠しいなと思っている。

 反面ふくざつな不安もある。

 待ち人は、流麗を詰め込んだような人で、おとなしく静かですこし恥ずかしがりや。

 絵にかいたような美しい少女だ。

 同級生といえ夏休みでこんな冴えない男子高校生つれていい少女ではない。

 そういう人が来る。

 きっと信じていた。

 だからふあん。

 でなく。

 ここで、やっときた。

 ベンチから立ち上がる。

 麦わら帽子かぶって、白いワンピースだった。

 たったっ涼しそう駆けてきて、満面の笑みで止まって、

「さっきさ、犬の糞を踏んだの! どう思う?」

 さいあくである。

 白サンダルの裏の見せてこようとする。

「升壱、これでお前を蹴ったらどう思う」

 嬉しそうである。

 その反対で歪んだ升壱である。

「蹴り返そうかなって」

「そうかなぁ、くっさぁ! って笑えない?」

「失笑かと」

「よし、では面白いことやったのでデート代そっちもちで」

 なにもかも裏返った気分だった。

 いま糞の踏んだサンダル脱いで、つま先嗅いでいる少女。

 この少女、早蕨さわらびメクと、さっき頭のなかでいた人の同一であった。

 すべてのやはりおかしくなっている。

 そうこの夏のはじまりから。


 数日まえ。

 升壱は蝉の声を窓越しにも、うるさく思っていた。

 自室のふとんのうえで、携帯をいじっていた。

 そこで妙な知らせで、画面の切り替わる。

「今日未明、世界に深刻な電磁波が降り注ぎました。

 これはアマテラス理論とされ、いわゆる恒星の発する放射線の異常です。

 この異常な放射線へあてられたものは、物理法則を無視しはじめ、いわゆるおかしくなります。

 そして本日なんとこれの直撃。やったぁ!

 というわけでこの通達もすこしおかしくなって、やったぁ!

 全世界おかしくなって、やったぁ!

 というわけです。

 しかしどうもこの放射線より、耐性のある人もいます。

 ほらいまどこもかしこにあるおかしいへ、おかしいといえるこの心意気こそ耐性です。

 さいごなりましたけど、そういうわけなんでアマテラス理論ばんざい!」

 というわけで、この夏、世界はおかしくなった。

 猫も杓子も歩いた。

 友人は魚のように跳ねるだけになった。

 両親は宇宙人にさらわれた。

 片思いの人は、犬の糞を踏んだことを楽しむようになった。

 ただ升壱だけ、まともであった。


 それでデートつづき。

 まだ公園。

「どこいきたい?」

 麦わら帽子の隙間から蓮みたいな白い前髪たのしそう揺れている。

 浮かれ気分なのはかわいらしい。

 しかしもって、どうデートしよう。

「特にないけど、そっちから呼んだろ」

「じゃあ競馬場いこう!」

「おとなになってからにしよう」

「じゃあ行きたいとこないや」

「いやもっと夏にしかできんこととか」

「よし虫取りしよう! どっちが多く蝉の採れるか!」

 彼女がっつり木登りし始めて、みんみんやっている蝉の取った。

 やった、やったで木から手の離しておっこちた。

 それでも蝉の持っていて、あたりきょろきょろ。

「虫籠ない」

「ないでしょう」

「仕方ないので架空虫かごってことで」

 虫かごのある体なんだろうところ、捕まえたの放した。

 空の青さへ飛んでいった。

「なんだこの虫かごすかすか」

「じゃあ、俺の知っている店とか行きますか」

「おまえ、一匹も捕まえてないんだかおごってね」

 まえまでならば嬉しかったなと思う。

 なんならば有り金すべて自身のひっくり返してでも渡しただろう。

 ただことこうなってしまうと、百年の恋も興ざめ。

 ようやく公園から出ようとしたらば、尖がった頭の似たおんなのこ三人あった。

 どうやら三つ子で、あたまの尖がり右の子から一、二、三と増えていった。

 鴉みたいな奴らだなと真っ黒な服に升壱は感想をもった。

 ちびっこ三人それぞれ升壱へ色紙つきつけてくる。

「お兄さんサインください」

「なんで?」

「売りさばくんです」

「無名のサインでは売れないんじゃない」

「なんだお兄さん価値ないんだ」

 なんだか悲しくされる。

 メクここで自信まんまん声のあげる。

「三つ子さん、私なら売れるよ!」

 三つ子すぐさま、売れるに飛びつく。

「いくらくらい」

「ちょっと糞で傷ものだけど、ざっくり一千万かな」

「すげぇ」

「本体価格なら三千万」

「じゃあ、さらう! さらう! さらう!」

 三つ子とっても大喜び。

 三人がかり、はしゃいでメク持ち上げてとんずら。

 升壱ここまで呆けていた。

 それから正気づく。

「あまりにばかばかしいけど、これって誘拐か」

 あとから追いかけるも、物凄く早い。

 走るさまこそ蟻のようちょこまか。

 しかしその小刻みも人大だと、たいしたもの。

 アマテラス論の効き目で、人体までおかしくなった部類らしい。

 むしろ耐性のある升壱なんら有意なく、あっさり撒かれた。

 こうなったらば警察だ。

 交番へ。

 交番まえ欠伸する警官だった。

「なんか事件ないかなぁ。ピストルって頭へ撃ったらどうなるんだろう」

「あのおまわりさん、人さらいです」

 警察帽の下であからさま嫌な顔。

「ちちぇえ、もっと世界征服とかさ、どかんとしたことないの?」

「たかだか交番へ、そんな事件こないでしょう」

「そうか! じゃあ出世しよう! どうやったら出世できる?」

「まず人さらいを捕まえてください」

「わかった。でも面倒だから、君に任せて僕はあとで手柄の横取りさせてもらう」

 手錠と警察手帳、それに拳銃まで渡してくれる。

「ではいってきたまえ」

 敬礼。

 私は寝る。そういって警官は交番へ入るついで、玄関とこ閉店のはりがみ。

「公的機関すらおかしくなっているもんな」

 蝉の鳴けば、汗だくだく。

 炎天、誰も助けない。

 手錠と拳銃を捨てて、こうなったらばやるしかない。

 升壱はアマテラス論にやられてはいない。

 ただ普通の人でありがちなちょっとの正義感。

 あとなにより。

 たとえどうなったって好きな人なのだから、それに性格のどうあれ。

「顔は好みだ!」

 と、英雄色を好むだった。

 こうして朱火あけび升壱による捜査がはじまった。

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