外来聖剣「ガチで危機感持った方がいい」

 それは予定通り積みゲーを消化していた時のこと。


クソゲー特有の操作性の悪さからくる難易度の高さに苦しめられていると、背後でそれを見ながら時々指示厨をしていたアールグレイが話しかけてきた。




「あの・・・・・・」


「ん? またトイレか? トイレなら姉ちゃんに・・・・・・あ、いや結局行かなくていいんだったんだっけか・・・・・・」


「あの! その話は、もう・・・・・・!」


「ああ、悪い悪い・・・・・・」




 結局問題なかったのだから良かったと思っていたが、どうもアールグレイの中ではそう処理されていなかったようだ。


いやまぁ、それもそうか・・・・・・。




「それで? 今度はどういったご用件で・・・・・・?」




 今度の声色はそんなに緊張したものではなかったので、安心して聞き返す。


それにアールグレイは少し声を低くして「いやぁーその・・・・・・」と少し呆れた風にして答えた。




「その・・・・・・! ミドリって、いつもこうなんですか?」


「いつもこうって言うのは・・・・・・どういう?」


「ですから、こう・・・・・・さっきからゲームばっかりじゃないですか! 最初のうちはまぁ見てられましたけど、そろそろ絵面が単調すぎて・・・・・・」


「はぁ? うっせぇなー・・・・・・いいだろ別に、俺の休みなんだから」




 休みはきちんと休みとして消費しなければ。


とにかく体力を使って遊んでいいのは土曜まで。


日曜はここから動くつもりはない。


ゲームに疲れたら寝っ転がって休むし、それに飽きたらネットで動画でも漁るさ。




「っていうか、それって結局お前が飽きたってだけの話じゃねーかよ。なんかお前は・・・・・・姉ちゃんにでも構ってもらえばいいだろ?」


「わたしが飽きたって、そういうことが言いたいんじゃなくてですね! 不健全ですよ、ふけんぜん! それにムギには迷惑かけたくないですし・・・・・・」


「俺はいいのかよ・・・・・・」


「ふふん、慣れてくると分かるんですよ! こう、面倒ごとを押し付けてもよさそうな人って」




 自慢げに鼻を鳴らしているところ悪いが、別に誇るべきことではないぞ。


そしてその嗅ぎ分けもまた失敗だ。


俺はどれだけ駄々をこねられようとここを動かない。


今日は何もしない。




「っていうか、お前こうしてるのに飽きてきたっつっても、その体でできることねえだろ? 俺にゲームやめさせたとてどうしようってんだよ?」


「それは・・・・・・ほら、パトロールですよ! こう、大気中の魔力を嗅ぎ分けて、聖剣使いさんを見つけるんですよ!」


「お前なぁ・・・・・・」




 まあ確かに、アールグレイの立場からすればこうしてじっとしているのがもどかしいのも分かる。


俺だって一応地球の運命がかかっているわけだから、関係ないわけでもない。


が、そもそも。




「パトロールって、俺にお前背負って外歩けってのか?」


「? そうですけど?」




 悪びれもせず答えるアールグレイ。


ガチのマジで帯剣して練り歩くのを問題だと思っていないようで、おそらくまぁこいつの世界ではそれは本当に問題ないのだろう。


だがここは地球、それも日本だ。


悪あがきでコスプレ主張しても、まぁまずこんなもん背負ってたらしょっ引かれる。




「あんなぁ、嬢ちゃん」


「嬢ちゃんじゃないです」


「・・・・・・そこはいったんスルーで頼む」


「はい」


「あんなぁ、嬢ちゃん。ここではな? 剣なんか持ってうろついたら捕まっちまうんだよ」




 ここら辺のすり合わせは実際しっかりしておかないとと思わされる。


何かあったら自分の身もアールグレイのこともかばいようがないからな。




「でも、そしたら・・・・・・道端で人に襲われたらどうするんですか? 凶暴な獣だっていますよね?」


「普通人に襲われねーよ! 獣も・・・・・・少なくともここらには居ませーん!」


「でも、今は魔獣が居ますよ?」


「それは・・・・・・イレギュラーな事態だから。まだ誰もそのことに気づいてないだろ?」




 俺の言葉にしばらくアールグレイは黙り込む。


とにかくパトロールに行けないことは分かってもらえたようだ。




 話は終わったとゲームに戻る。


だが妙に身が入らなくて、少し動かしただけでやめた。




「・・・・・・」




 背中側にやけにもの言いたげな気配を感じるので、もう一度アールグレイの方を向く。


視線のすぐ先で、小さな窓から差し込んだ光に照らされて輝く一本の剣があった。


それを見ているとなぜか瞳を覗き込まれているような気分になる。




「本当に・・・・・・本当にそうでしょうか? 昨日、ミドリの携帯を少し見ましたが・・・・・・・」


「え、いつの間に!? てか携帯いじれんの? その体で?」


「いや、寝る前ミドリがずっと寝っ転がってみてたんじゃないですか! ていうか寝た後もずっと流れてましたよ?」


「ぐ・・・・・・あんま勝手に見ないでくれよ」




 昨日センシティブな何か見てなかったかと不安になるが、そもそも寝た後も自動再生で垂れ流しだったのだから記憶を遡ったところで意味が無い。


俺の入眠ルーティーンが悪さをするとは・・・・・・。




「そのことは今はいいんです・・・・・・!!」




 よくない!




「ミドリの携帯を昨晩見ただけで、魔獣が関連していそうな話題が何度も流れてきました」


「まさかそんな」


「って、そうやって本当に思っていますか? 少なくとも、多少はミドリも違和感を覚えているんじゃないですか?」


「それは・・・・・・」




 確かに最近不穏なニュースが以前よりみられるようになったとは思う。


何かおかしいとは言わないでも、漠然と何かが変わったようなそんな感覚は・・・・・・無いでもない。




「ミドリは、きっとそう遠くない未来はっきりと分かることになるはずですよ。あなたたちは、もう運命の荒波の渦中なんです」


「そ・・・・・・そうは言っても、な・・・・・・」




 ルールはルール。


気持ちや意識の問題だけでは語れない。


どうしたって、アールグレイを持ち歩けない。




「・・・・・・。分かりました。じゃあ・・・・・・」


「ミドリの気にしてること、一つどうにかしてみますよ・・・・・・魔法で・・・・・・」




 いつもより数段真面目な声色で、アールグレイが告げる。


その手があるなら初めからそう伝えろと、そう言いたいところだったが・・・・・・。


どことなく張り詰めた雰囲気がそれを許さない。




 アールグレイは魔法について多くを語らない。


だから、きっとそっち側の世界の事情でなんやかんやあるのかもしれない。


つまり、アールグレイはリスクを負うことを選んだ。


そして・・・・・・。




 それなら、俺はどうする・・・・・・?

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