聖剣のある暮らし・・・・・・の始まり
「だぁかぁらぁー、魔力通信機っていうのはですねぇ!」
「いーよいーよ、無い無い。無いから、そんなもの」
「そんなこと言ったって、無いとわたしが困るんですよ! どうやって先輩と連絡とったらいいんですか!? お二人だって、わたしがいつまでもここに居ると困るでしょ!」
「それはそうだけど・・・・・・」
だからと言ってどーせいっちゅーねん。
どれだけねだられようと無いものは無いし、剣さんの力にはなれない。
正味そっちの状況とかどうでもいいからさっさと出てってくれ。
「あんなぁ、そもそもの話だ。お前魔力魔力っつってけど、魔力なんて地球にゃ無いぜ?」
「これだから辺境の世界はヤなんですよ! 魔力は基本的にどの世界にもあります! ただここみたいな文明レベルの低い世界は見つけられてないか気づいてないだけ!」
「お前の地球ディスはもうとりあえず許すとして、結局俺たちが魔力の存在に気づいてないなら魔力通信機なんて代物あるわけねーだろ! お前の世界、文明はさぞご発展なされてるようですが! お前のおつむはそうじゃないみたいだな!」
「はー!? こいつむかつく。あのですね! 魔力が何だかも分からない原始人さんたちは、そうと知らずその原理を利用してるものなんです! だからわたしが必要とする魔力通信機! それに準ずる機能を持つ道具を貸してみてくださいって言ってるんです! それくらい察しろ!」
「あのなぁ・・・・・・」
呆れてものも言えないとはこのこと。
そういう文化圏なのかも分からないが、話の出来なさに頭痛がしてくる。
そりゃ地球にも時々自分を世界の中心だと思ってるような輩は居るが、人ん家の天井ぶち壊して床にぶっ刺さってるんだからそれ相応の態度ってもんがあるだろ。
とは言えこちらもあまり強気には出られない。
いつ斬り伏せられるか分からない身だ。
あまり頭に血を昇らせないように気をつけないと。
ヒートアップして熱暴走しつつあった俺たちの傍ら、姉ちゃんがおずおずと手を挙げる。
「あのー、えっと・・・・・・これとか・・・・・・どうでしょうか・・・・・・?」
そうして姉ちゃんが剣の方に差し出すのは、先程は管理会社と繋がっていた携帯電話。
今は通話は切られて画面も暗転している。
それに目をやった剣は、排熱するように息を吐いた。
「ふぅ・・・・・・。やっぱりこっちの・・・・・・メスの方は話が通じますね」
「おい!」
言葉を選べと口を挟むが、話が通じない判定を下された俺は完全に無視される。
やっぱり教科書云々の前に素で性格悪いと思う。
「して、それはどんなものなんですか?」
「えっと・・・・・・遠くの人、と・・・・・・お話しする道具、です・・・・・・」
剣の質問に姉ちゃんはだいぶ大雑把に答える。
利用してる技術が魔力でないことを除けば、まぁ通信機って言ってたし似たような道具と言えるだろう。
あの剣の言う魔力が、たとえば電波云々のことならこれは魔力通信機を名乗ってもいいことになるが・・・・・・流石に電波が魔力はちょっと・・・・・・。
「ふむふむ・・・・・・なるほど」
姉ちゃんの差し出した携帯に、剣は興味深そうに視線を落とす。
そして・・・・・・。
「使い方が分からないですね」
「は、はぁ・・・・・・」
その返事にはわりと従順に言うことを聞いていた姉ちゃんも流石に困り果ててしまっているようだ。
相槌未満の返事でその言葉を受け止めることしか出来ていない。
「ま、だろーな。携帯はあくまで携帯で、その魔力通信機じゃない。仮に根幹に同じ原理が使われてたとしてもだ」
「それは・・・・・・まぁ、そうですケド・・・・・・」
不服そうに剣身をたわませる剣。
なんとか言い返してやりたいと思っているのだろうが、こうして前に出された携帯が使えそうもない以上何も言えないといった具合だろう。
「・・・・・・でも、それじゃわたしはどうしたら・・・・・・」
「そりゃあ・・・・・・知らねーよ」
「・・・・・・」
あー、くそ。
散々横暴に振る舞われてたっていうのに、こう・・・・・・落ち込んだ雰囲気を出されるとどうにも罪悪感が湧いてしまう。
俺の人格はそれを美徳と解釈するような性格でもないので、わずらわしいばかりだ。
しかし、事実突然降って来た剣相手にどーしろっちゅーねん。
してやれることは、大体した・・・・・・っていうかだいぶ親切にしてやったはずだ。
剣はそのことも分かってないわけでもないようで、さっきからしばらく黙っている。
まぁ多少後味は悪いが、このままここを出て行ってもらおう。
「そういうわけで・・・・・・まぁ俺たちも悪いとは思うが・・・・・・」
「分かりました」
俺の言葉の途中で、剣はそう呟いて頭・・・・・・持ち手の部分をぺこりと下げる。
そして・・・・・・。
「あなたたち二人には、しばらく協力してもらうことにしました!」
「おいこら!」
さっきまでのしなっとした感じはどこいった。
恥知らずと言うべきか、面の皮が厚いと言うべきか・・・・・・。
ここからさらに頼み事を重ねて来た。
申し訳ないとか、そういう風には思わないんだろうか。
「いいじゃないですか。聖剣ですよ? 強いですよ? 護身用に1本置いとくくらい」
「ま、待て。協力って・・・・・・ここに居座るつもりかよ!」
「あれ? それについてはわたし最初からそのつもりでしたけど? 言ってませんでした?」
「言ってねーし、普通にダメだよ!」
「斬りますよ?」
「・・・・・・っすぅー・・・・・・」
魔力通信機の有無の言い合いのくだりでは一切使わなかった文句をここで切ってくる。
きちんと使い所を弁えているようで非常にたちが悪い。
「まぁそれは冗談ですけど、でも・・・・・・こっちもそんな自由に動けるわけでもないんですよ。お二人はもうしょうがないとして・・・・・・本来現地人と干渉するのはあまり良しとされませんから」
「でしょうね」
絶賛その被害を一身に受けてますからね。
「ですから、お二人の生活についても・・・・・・出来るだけお邪魔にならないようにはしますから・・・・・・。たぶん、そんなに長い間でもないはずです」
「ほんとぉ・・・・・・?」
疑念を愚痴るように吐き出しながらも、半ば諦めたように肩を落とす。
文明レベル云々は置いといて、この件に関する上下関係はおそらく覆らない。
生殺与奪を握られてるもんでね。
「もう・・・・・・わたしだって邪魔したくてこうしてるわけじゃないんですからね? 仕方なくですよ、仕方なく」
「さいですか」
「ですから・・・・・・まぁ一応誠意を見せるってことで、自己紹介させてもらいますね。わたしは聖剣管理庫出身、アールグレイです。お二人は・・・・・・?」
聖剣管理庫・・・・・・出身?
出身地として挙げられる名称としては不自然だから、少し引っかかる。
しかしまぁ剣の姿をしているし、そういうことなのかもしれない。
いや、だとしても武器庫に武器は自然発生しないだろ。
いや、まぁ・・・・・・魔力がある世界だもんな。
「えっと・・・・・・」
どうする?と、姉ちゃんと顔を見合わせる。
いや、別にここで偽名使ったってしょうがないんだが、なんとなく名乗っていいのかという不審感はあった。
それでも姉ちゃんは困り眉で答える。
「えっと、私がムギ。青葉 ムギで・・・・・・」
「俺がその弟のミドリ」
こんなんでいいのかねと、頬を掻く。
俺たちの言葉にアールグレイはくねくねと頷いた。
「ふむふむ、なるほど。ムギにミドリですね。まぁまぁ・・・・・・これからしばらく一緒に居る以上、仲良くしましょうね!」
「はぁ・・・・・・まぁ、お前次第、かな・・・・・・」
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