第25話 嵌められた邪悪な魔女

 気付けば暗い牢屋の中だった。罪人らしく見張りがつけられている。私が意識を取り戻したのを見て、見張りの一人が何かをしゃべっている。出してもらえるのかな?


 暗い牢屋に明かりがさした。階段を降りてきたのは……セレネだった。


「お姉さま。気分はいかが?」


 にっこりと優しい笑み。それがなによりも怖いことを私は知っている。私を手招きする。近づいていくと、ガシャンっと手を伸ばされて服をひっぱられた。強い力で動けない。


「な、なにを……」


「よくもわたくしのイグニス様をかどわかしてくれましたわね」


  ぎりっと腕に爪をたてられる。


「いたっ……イグニスはセレネの所有物ではないでしょう。痛いから離して!」


 痛みを訴えるが、嫌ですわねぇと余裕の雰囲気は崩さず、微笑まれる。


「お姉さまのもので、わたくしが手に入れられなかったものなんで今までありまして?」


「セレネ。なぜ私にそんな執着す……っ!?」


 私の顔に自分の顔を近づけてにやりと笑う。そして突き飛ばした。その瞬間、セレネがきゃああああと悲鳴をあげる。慌てて、見張りの兵が駆けつけていた。


「セレネ様!どうしましたか!?」


「お姉さまが、わたくしのことを消してやるとおっしゃって……!怖いですわ!」


 こいつ!と兵がにらみつけてきた。


「違うわ!私は何もしてないわ」


 立ち上がって、私は訴える。


「黙れ!この罪人が!!」


 腰に持っていた剣の柄を鉄格子の隙間から入れて、私の腹を殴る。思わず、後ろへ倒れ、痛むお腹を押さえた。ゲホッとせき込み、涙目で顔をあげると、怖いと言いながら笑うセレネの顔があった。


 なんて醜悪な性格してるの。怒りがふつふつと沸き起こる。


「何を騒いでいる?陛下が意識を取り戻したなら話があると言っている。セレネ様も一緒にいかがですか?」


「ええ。わたくしも行きますわ。陛下はわたくしの言葉を信じ、愛し子たちを狙う邪悪な魔女から守ってくださる。そんなお心に感謝してますわ。また騎士団の方々においては、わたくしの婚約者を魔女から救ってくださりありがとうございます」


 私を愛し子を゙狙う悪い魔女に仕立て上げるセレネのシナリオは完璧だったようだ。騎士がうっとりとした目で弱々しく震える演技をするセレネを見ている。


「『水の愛し子』をお守りすることは当然の責務です。なんでもおっしゃってください!」


 騎士の忠誠心や誇りが満たされたようだ。ソレを見て、セレネは満足そうな顔になる。


 私を汚いものでもみるように横目で視線を送り、早くいらして、お姉さまと言って牢屋の階段を上っていった。陛下が待つ部屋へと呼び出されているようだった。セレネは一足先に行ってしまう。私の牢屋のカギが開けられ、手には頑丈な鎖が施される。


「こい!陛下がおよびだ。陛下の前で変な真似をしてみろ。串刺しにしてやるからな!」


 セレネにかけた言葉とは程遠い言葉を私に吐く。引っ張られて、ぎりっと手首に食い込む鎖が痛い。


 セレネとの扱いがまったく違う。どうせ私は邪悪な魔女よねっ!おひとり様の生活を楽しんでいただけなのに、どうしてこうなるのよ!?って、いじけたくなるわ。


「……やっぱりナハトに頼むべきだったかしら。骨まで消してくれって」


 あまりのムカつきっぷりに、魔族と今なら邪悪な取引きしそうな自分がいた。


「ごちゃごちゃ言ってないで、こい!!」


 わかってるわよっ!と言い返すと乱暴に鎖を引っ張られ、転びかける。ハッと鼻で笑われた。悔しい……。


 でも疑問が残る。なぜわざわざ陛下が罪人に会うんだろうか?罰を下すだけで、簡単に終わるだろう。長い廊下を歩きながら、私は少し違和感のある呼び出しに首を傾げたのだった。

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