第24話 炎を消すために心を消す
「イグニス!行かないで!やめて!!」
外へ行くイグニスを止める。ナハトがやり取りを見て、アハハハハと笑い出す。人の怒りや嫌悪感は魔族にとってごちそうらしい。ぺろりと舌なめずりをして、ウキウキしている。
「あーあー、人間って魔族より怖い時あるよなぁ。アウラ、俺に頼め。『滅ぼせ』って言えよ。一人残らず、きれいに一掃してやろう」
外にいる人たちをゴミでも見るような目で、ナハトが言い放つ。セレネに嵌められていることが、悔しくて、悲しくて、思わずやっちゃって!って言いたかった。でもダメよ。イグニスもナハトも巻き込んではダメ。
「お師匠様、ダメです!何をされるかわかりませんよ!」
カイが私を止める。
「ごめんね。カイ、私が帰らなかったら、この家はあなたの好きにしていいわ。後、銀の鱗があるわよね。それを売って当面の生活費にしなさい。いままで、私の身の回りのお世話をしてくれてくださいありがとう」
泣きそうな顔をしてカイは私を見る。
「バカだなぁ。ほんとバカだ。アウラ、痛い目を自分から見てどうすんだ?俺に頼めよ!願え!!王都に行ってしまえば、俺はあそこに侵入できない!!俺様の力を利用できるのは、今だけだぞ!!」
「ナハト。私が今、抵抗したらどうなると思う?この家は焼かれ、イグニスは罪に問われる。私が出ていけば、私の責任としてすべてがおさまるの」
「……人間どもを全員消せばおさまるぞ」
「あのねぇ……そろそろ行くわ。カイ、ナハト、また会えるといいわね」
じゃあね。と手をあげる。そしてもう後ろはみない。みたら涙が出そうだった。私の大事な小さな家。一人の時間。さようなら。
松明が何本もある。イグニスにはさすがに手を出せず、騎士団たちがためらっている。
「イグニス様、王都へお帰りください。そこの魔女の呪いから目をお覚ましになってください」
「うるさい!おまえらの方こそ、真実に気付けよ!」
「そこの女は毒婦ですぞ!イグニス様!」
その一言に黙れ!と言い、激しい力の渦が巻き起こる。生まれる炎。暗闇が昼のように明るくなった。空には真っ赤な炎の鳥。怒りに満ちた顔をしているイグニス。怯える兵達。力をうまく制御している。いつの間にか力を暴走させていた少年は成長し、火を操るまでになったらしい。
「イグニス!やめて!」
美しい火の鳥に一瞬魅入ったが、私はハッとしてイグニスに呼びかける。兵たちは恐ろしさに足がすくみ、動けないようだった。
「私が行けば、イグニスのことは罪に問わないでもらえますか?」
「イグニス様にかけた魅了の呪いを解けば、陛下が許すと言っている。操られているのだから、当たり前だろう」
騎士団長らしき人がそう私に告げる。
「アウラ、何をいってるんだ。操られているとか、そんなわけないだろう!?」
「イグニス、ダメよ。王家に追いかけられ、公爵にもなれないなんて、そんなのあなたの人生めちゃくちゃよ。私には犠牲にするものはないもの」
ごちゃごちゃ言わないで、ここへ入れ!と檻のような馬車を指さされる。
「待て!」
「イグニス、私のことが好きなら、ここは見送ってほしいの」
「そんなこと、できるわけないだろう!」
「火の鳥を消しなさいよ。……私は自分で選んでいくのよ。イグニス、家へ帰って!私のことは私でなんとかするわ。はっきりいって、あなたがいることが迷惑なのよ!自覚しなさいよ!」
冷たい口調で言い放たれて、イグニスは子犬のようにしょぼくれる。フッと火の鳥が消えた。
半分……本心じゃないでしょと自分の中のもう一人が言うけれど、そうでもしなければ、イグニスが罰せられるだろう。どうせ私が罰せられたところでたかがしれてると思うのよね。予想では、国外追放かな……。
平穏を得るために私は私の心にあるものを見ないふり気づかないふりするだけだもの簡単よ。幼い頃から諦めることには慣れてるもの。大事なものほど手に入らない。妹に奪われていく人生に飽き飽きして一人になることを選んたのに、けっきょくこうなるらしい。
私は大人しくなったイグニスを見て、うなずき、檻へ入る。その瞬間、眠気が襲う。そういう術を施してあったのかもしれない。ガクリと体の力が抜けて、倒れこむ。そこで意識をうしなった。
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