第23話 夜は更けて炎に照らされる

 その日の夕飯は賑やかだった。椅子が足りなくて、1つは木の箱を椅子がわりにする。


「なんで俺様が!?椅子を貸せよ!」


「先着順よ。ナハトは来るのが一番遅かったでしょ」


「なんでだよー!偉大な俺様がこんな扱いされるなんて!アウラの椅子を貸せよ!」


 ギャーギャー言う、ナハトの苦情を聞き流して、私はワインをグラスに注ぐ。


「カイは料理が上手いな」


 釣った魚を手早く調理してくれ、魚のムニエル、魚のフライタルタルソースがけ、魚のマリネなどずらりと並べられていた。


「そんなことないですよ」


 褒められて、謙遜するカイ。しかしイグニスは感心しっぱなしだった。


「いやいや、味付けも良いし天才だと思う。どこでこんな技術を?」


「僕、早くに両親を亡くしていて、おばあちゃんと妹と住んでいて、そのおばあちゃんも亡くなったから、そこからは僕が作ることになりました」


 そっか……だからこんなに上手いんだなと、イグニスは微笑み、頷く。カイは照れっぱなしだ。私はそこまで褒めない。イグニスは褒め上手だわ。


 ナハトがは無遠慮にウマーイ!と食べ続けている。相変わらず大食いである。魚を釣ってきてくれて良かったわ。


「魚を樽に入れて塩漬けにもしてあるので、まだ食べれますからね」


「そこまでしたの!?」


 カイ、すごすぎるわ。私はワインをもう一杯注ぐ。


 皆で手作りの生クリームがかかったプリンを食べていたときだった。


 ナハトが手を止めた。イグニスが席を立ち上がる。私はざわりとした嫌な気配を感じる。


「え?皆さんどうし……あれ!?なんでしょう!?窓の外にいくつもの灯りが……」


 窓の外に赤々と燃える松明や魔法の明かり。映し出される姿は王家の紋章が入った騎士団だった。


 来たわね……。私は額に手をやる。


「だーかーらー……イグニス、帰りなさいっていったでしょ」


 イグニスはやれやれと立ち上がり、外を睨みつける。


「燃やさないでよ!?この家に飛び火したら私のコレクションたちが!……いふぁい……」


 私の頰を引っ張る。痛いです。


「アウラの心配はそこかよ!?オレの心配はしないのか?」


「むしろ騎士団とこの地を燃やし尽くしそうで……」


 ナハトがハイハイハーイと手を挙げる。


「よかったら、俺様が一掃してやろーか?跡形もなく、骨すら残さずに!ハッハー!」


「やめてよっ!それこそ大問題よ」


 黙っててほしい。世間知らすの魔族なんだからっ!そんなことしたら、取り返しがつかない。騎士団に手を出したら完全に謀叛の罪で死罪になる。


「出てこい!男をたぶらかす魔女め!」


「出てこないなら、こちらから踏み込むぞ!魔女、覚悟しろっ!」


 イグニスが目を細める。


「はあ?魔女だって?オレじゃないのか?」


「なるほどね……こうきたわけ」


 私は腕を組む。お師匠様!?カイが心配そうに私をみつめる。


「つまりセレネは私がイグニス『火の愛し子』をたぶらかした悪い魔女だと王家に言ったわけ。だから私を捕らえにきたのね」


「なんだって!」


 イグニスの炎が燃え上がる気がした。カイがそんな……とうろたえだす。ナハトがおもしろそうに成り行きを見ている。イグニスは行動に移した。スタスタとドアの方へ歩いていく。


「オレがどうにかする」


 ど、どうにかって!?嫌な予感しかしない私だった。


 

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