第20話 推しは推せる時に推せ!
このロイ様の横顔の写真の明るさも背景も配置も最高よ。カメラマンが良い仕事してるぅ!わかってる!ロイ様は横顔が素敵なのよね。衣装の赤色が良く似合ってるし、デザインも派手すぎず、ちょっと可愛さも取り入れてあるわね。うんうん。衣装係さん、グッジョブよー!
先月の劇場のパンフレットをもう一度見ている。パンフレットは保存用、掲示用、手にとって見る用の3冊をいつも購入している。完璧よ。
新しい劇が始まったら、期間限定のロイ様のピンバッチが今回も売り出されるかしら?あー、もー、絶対に買っちゃう!私のこのささやかな投資がロイ様の人気を支えているなら、なによりもうれしい!
うふふ。今月の劇場も楽しみぃ!
「おーい!アウラ!……まだ出てこないのか?」
……この声は。
「駄目ですって!イグニスさん、この部屋にいる時のお師匠様は勉強中だから声をかけないように言われてるんですっ!」
「でも3時間は出てきてないが……」
時間をはかってんの?いや、でも3時間はいけるわよ?推しを愛でる時間は際限なんてない。
アウラーッ!と呼ぶ声に負けて立ち上がる。何よ!一人でゆっくり愛でたいのにいいいい。
私は扉を開け、しっかりと念入りに3個の鍵で施錠した。それを見ていたイグニスが不審な顔をした。
「すいぶん、自室を頑丈な守りにするんだな?」
「ほっといてちょうだい。ここは神聖な場所よ」
これだから一人がいいのにとブツブツ文句を言う私。
「アウラ、何を隠してる?部屋の中を見ては、だめなのか?」
ムッとするイグニス。その顔を見て、カイはトコトコと鳥小屋から持ってきた卵を抱えて、あきれたようにイグニスに言う。
「イグニスさん、どうせお師匠様の推しの部屋なんですから、そっとしておいてあげてください。気付かないふりをするのも優しさですよ」
「そっそんなことないわよっ!」
「声がうわずってますよ?お師匠様……」
カイの鋭さにギクリとする私。その焦りを思わず顔に出してしまい、イグニスも気づいたようだった。
「推し?それは男か?」
「……女ではないわね」
イグニスがさらにムッとした。
「オレよりいい男なのか!?」
「いやいやいやいや……言っておくけど、推しと付き合うとか結婚を望むとはちょっと違うのよ。私がしたいのは応援!応援して私が彼を人気者にしたという充実感、達成感、満足感なのよ!」
「それ、楽しいのか?よくわからないんだが?」
「推しのいる生活は潤いがあるのよ。私の推しは今、劇場でやっとトップになって、輝いてるわけ。今こそ推したいのよ!」
邪魔しないでほしいということを言ったつもりだったが、イグニスは超不機嫌になった。
「ふーーーーーん。アウラはオレよりその男がいいんだな」
「イグニスさん。余裕ないんですね」
カイの言葉がグサリとささったらしい。イグニスが静かになった。カイ、ナイスよ!私は名言を言うことにした。
「いい?イグニス、推し活には、こういう言葉があるのよ。『推しは推せる時に推せ!』とね。私は今、この瞬間に推したいの!」
「オレ、自分でいうのもなんだが、次期侯爵で火の愛し子で顔も悪くない。弱い男でもないと自負してる。なんかその男に負けてるか?オレを推すっていうのはどうだ?」
わかってないわね。私は両手を広げて首を振る。
「……はぁ」
「なんでため息ついたんだよ!?」
「理解できないなら、できないで、静かに推し活させてよね」
イグニスが私の様子に昨日と同じくらい傷ついた顔をした。イラッとしたらしく、口を開こうとしたが、先にカイに言われる。
「二人が結婚したらくだらないことで喧嘩しそうですね」
お子様のくせにカイはやはり時々、鋭いことを言う。私とイグニスは黙りこくったのだった。
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