第21話 対面する男たち

「むっ……お茶変えた?」


 朝食のパンをサクッと食べ、一口、お茶を口に含んだ時だった。いつものお茶ではないことに気付いた。上品な香り、渋みがちょうどいい。


「わかりました?イグニスさんが生活費をポーンと出してくれたので、高級なものを買ってみました。お師匠様はお茶が好きでしょう?」


 スーパー家政夫カイはどこまでも完璧ね。私の嗜好をしっかり把握している。


「あれ?そのイグニスは?今朝はみないけど……」


「畑の方で野菜の世話をしてくれてますよ」


「あのイグニスが!?そんなことするはずがないわ!嘘でしょ!?」


 屋敷にいたら、使用人たちにさせていることをイグニスが!?


「草むしりを頼んだら、快く引き受けてくれました」


 慌てて、飛び出して、畑へ行くと、ちまちまと背中を丸めて草むしりをしているイグニスがいた!


「ちょっ、ちょっと!!イグニス!!」


 ん?と顔をあげた。その顔が幼い頃の無邪気なイグニスの顔に一瞬戻っていて、懐かしさを感じた。鼻に泥をつけている。


「なんでこんなことしてるの?」


「いや、家にぼーっとしてても退屈だろ?体力も持て余してるし、何かすることないかと思って」


「次期公爵で火の愛し子がこんなことさせてることがわかったら、私が怒られちゃうわ……鼻に泥、ついてるわよ」


 私が自分の服の袖で、イグニスの鼻の泥を背伸びしてぬぐおうとしたが、届かない。少しかがんでくれて、やっと届いた。


「……アウラ、ありがとう」


 パッと笑顔になるイグニス。ああ……なんて懐かしい笑顔だろう。そうだ。彼はもともと笑顔が可愛かったのだ。思い出したわ。しばらく赤い瞳にうつる自分を見る。穏やかな風がふわりと吹いた。なんて心地良い時間だろう。この瞬間がいつまでも続いてくれないかなと思った時だった。


「おーい!アウラ、甘い物ないか?」


 この声は!!ナハト!?


「なんだ?この男は?」


 そういえばイグニスとは初対面だったかもしれない。イグニスと会ったことがなかったはずだ。笑顔は消えて不機嫌になる。


「それはこっちのセリフ……へぇ。けっこう強い力を持つ男だな」


 紫色の目が煌めく。ペロリと口の端を舐める。この魔族、イグニスが火の愛し子とは気づいていないようだった。だけど、おいしそうに見えるらしい。よだれをたらさんばかりの顔をしている。


 そんなナハトに焼き尽くしてやろうか?そんな顔をするイグニス。

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