第15話 公爵家のパーティー
「お師匠様?」
「なによ」
「……お師匠、これって?」
「だから、なによ?」
カイが納得いかない顔をしている。
「なぜ、こんな格好なんですかーっ!?ドレス着て、パーティーに参加するのかと思ってましたよっ!」
カイは可愛らしいメイド姿。私は警備兵。
「しかも逆でしょう!?なんで僕が女の子のメイドをして、お師匠様が男性の警備兵の姿になってるんですかっ!?」
私はあまいわねっと人差し指を振る。
「カイが警備兵なんて身長も足りないし、可愛すぎるわよ」
帽子を目深に被り髪の毛と顔を隠す、白い手袋をキユッとはめ、身体にタオルを巻いて、私は体格をごまかす。カイはカツラをかぶり、メイド服を着るだけで十分可愛らしい。私の見立て、間違ってなかったわとカイの可愛らしさに満足する。
「お師匠様、この部屋に来るまでの道や部屋の位置にすごく詳しいんですね」
「まぁね。よくイグニスと隠し通路や隠し部屋を探してて遊んでたもの」
「そんなことしてたんですか!?イグニスさんは忍び込まれるなんて思ってなくて、教えたんじゃないですか?」
まぁまぁ。役立ってるからいいじゃないのと私は笑う。悪い笑い方ですねとカイはあきれたように言う。でも……と付け足す。
「招待状もらったから、師匠のことだから正面から堂々といくと思ったんですけど、どうしたんですか?竜には強気なのに。竜殺しできるほどの魔女がなぜコソコソしてるんですか?そんな性格じゃないでしょう?」
「疑問ばっかりぶつけてないで、自分で考えてちょうだい。さぁ。行くわよ!」
カイは掃除道具を手に出ていく。私はさっそうと男らしくドスドス歩いていく。演技は完璧ね。推しのロイ様といつか共演てきるくらい完璧じゃない?
昔と変わらない公爵邸のおかげで、パーティー会場まで難なく行くことができた。堂々としていれば警備兵たちや他の人達も怪しくは思わないものだ。私は警備兵のふりをして警備の位置についた。華やかな流行りのドレスを着ている令嬢たちが優雅に踊るのを見渡す。
えーっと、イグニスとセレネはどこなのかしら?
「もう!イグニス様、話を聞いていますの?」
上目遣いで、可愛く『もう』というセレネは可愛らしく、他のお客さんたちが『あらあら』『イグニス様、お話を聞いてあげないと』さびしくなっちゃいますよね』なんて、微笑ましそうに眼を細めてニコニコしながら見ていた。
当のイグニスは浮かない顔をして、興味がなさそうに『そうですね』と淡々と答えている。
「イグニスさん、不愛想ですね」
カイがいつの間にか横に来ていた。
「……そうね」
ムスッとしていて、つまらなさそうにしている。どこか怒っているようにも見えるけど……。セレネの言うイグニスが辛い立場になってるとはこういうことなのかしら?
「聞きました?今日、イグニス様とセレネ様の正式な結婚を発表されるんですって」
「そうらしいですわね。お似合いの二人ですから、やっと……というところですわね」
他の招待客が噂話をしている。……なるほど、イグニスの機嫌が悪い理由がわかった。でも拒むことはしなかったらしい。この場にいるということは了承したのだろう。子どもっぽく怒ったところで、公爵家の嫡男の義務はきちんとわかってるのね。
「イグニスは大丈夫そうね。無駄足だったかも」
「結婚しちゃうんですかね。別に僕は構いませんけど……これでライバル減るし」
「なんのライバルよ。何を競ってるのよ」
なんでもないです。独り言です。そう言って、イグニスの様子をじっと熱心に見ているカイ。私も見ていた……ふと、イグニスと視線があった気がした。まさか。気のせいよねと思う。
……気のせいだったらしい。イグニスはテーブルの酒を手にして、一気飲みした。酒が飲みたかっただけらしい。ばれなくてよかった!まぁ、まさか男装しているとは思わないだろう。
時折、セレネがイグニスに触れる。そして幸せそうに笑う、他の貴族たちもやってきて、楽しそうに会話が始まる。もしも私も愛し子の力を持っていたなら、今でもイグニスの婚約者は私で、あのセレネの場所にいたのだろうか?
もしも……なんて言葉はない。目の前で起きていることが現実よね。カイは完璧なメイドの役割をこなしている。いらないグラスをさげたり、料理を運んだりし、忙しそうだった。
良いじゃないの……私は郊外に住む一人が好きな魔女だもの。気楽でいいわ。一人の方が良いって決めたもの。
パーティーはどんどん進んでいく。そろそろという時間になった時、イグニスのお父様が皆の前に出てきた。
「本日はイグニスとセレネ嬢のお祝いの席に皆が来てくれて、感謝する」
ざわざわとしていた室内がシンと静まり返った。
「喜ばしい報告を皆にしたいと思う。イグニスとセレネ嬢は1年後にけっこ……」
結婚するのね。と私が聞き耳をたてていると、言葉を遮る者がいた。
「結婚はしない!婚約もしない!」
「イグニス!お前は……まだそんなことを!!」
イグニスの父が怒りだした。イグニスの目が怒りで燃え上がり、深紅の色に染まっている。
スタスタスタと歩き、イグニスは去ろうとして……?
えっ!?
ええええええ!?
私をひょいっと肩に乗せて抱えた。
「オレの婚約者は今も昔も変わらない!一人だけだ!このアウラだけだ!!」
「イグニス!!」「イグニス様!?」
私とセレネの声がハモる。パーティー会場に突然の嵐が巻き起こった。
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