第13話 彼はわたくしのものです
「単刀直入にお話いたしますわ」
セレネの雰囲気からして、怒りをぶつけにきたということがわかる。口調がキツくなっているし、最初からトゲトゲしさを隠していなかったからだ。
「なにかしら?」
「イグニス様はわたくしの婚約者ですわよね?」
ええ。そうよと私は頷いて肯定した。
「お姉様は泥棒猫ですの?」
「はあ!?」
奪ったことなどない。むしろ奪われた気がするんだけど?私の認識とセレネの認識に違いがあるの!?
「イグニス様に結婚をそろそろ意識してほしいのですわ。それなのに、イグニス様の口からお姉様の名前がでてくるのですわ」
「私の名前がなぜ?」
私の返事にギリッと音がしそうなくらい奥歯を噛みしめるセレネ。穏やかで美しい水の愛し子というイメージが私の前では保てないらしく、表情が怖い。
「とぼけていらっしゃるの!?わたくしに内緒でイグニス様と会っていますわよね?なぜですの?お姉様の婚約者だったイグニス様がわたくしのことを好きになってしまった報復に今になってとろうとしてますの?」
報復も何もイグニスが勝手に私の家に来ているだけだけど……。セレネの責めるような口調は激しい。お茶を運んできたカイが驚いて立ち尽くしている。
「お姉様のせいで、イグニス様は家の方々、また他の貴族の方から悪く言われてますわ。王家からも公爵家の嫡男がしっかりしなさいと苦言をもらってしまったそうですわ。苦しんでいますのよ!」
「それは知らなかったわ……」
「それなら、これも知りませんわよね?『いつまでもアウラに執着し続けるなら公爵の位は王家に返上する』そうとまでお父様に言われてるそうですわよ!」
えっ!?と私は声を上げてしまった。そこまでなの?公爵家がなくなる?イグニスは一人息子だから、あり得る話だった。そこまでイグニスは覚悟してるの?それとも甘くみてる?昔、見たことがあるイグニスの父の公爵様は厳格そうな方だった。きっとイグニスのお父様がするといえばするだろう。
「私に何をしてほしいわけ?」
イグニスの性格上、好きだと一旦燃え上がってしまったら、消すことは難しい。昔からそうなのだ。むしろ消す方法があるなら、教えて欲しいものだと思う。
「お姉様がイグニス様の前からいなくなればいいのですわ」
「だから、こうして郊外の家に住んで、皆が煩わしくないようにしてるんだけど?」
『いなくなればいい』そんなことわかっている。だから実行したのに……。イグニスは諦めず、探し出して家まで訪ねてきたのだ。
「嘘ですわよね?イグニス様に居場所を教えたのですわよね?」
「違うわ。私は何も言ってないわ」
「嘘ですわ!」
どうしたらセレネにイグニスと私は無関係だと説明できるのだろう?
「お姉様はこのままイグニス様が公爵家から追い出されても良いと思ってますの?」
「そんなこと思ってないわ。イグニスが公爵家を継ぐことが望ましいと思うわよ」
「そうですわよね。その言葉を聞いて安心しましたわ。ではこれを受け取って頂けますか?」
1枚の封をした手紙を渡された。
「なにこれ?」
「お姉様などが到底参加できなかった社交界のパーティーですわ」
社交界デビュー。帰属の令嬢ならだれもが憧れる場所。疎まれていた私には許されなかった場所。ドレスなんて作ってもらえなかった。キラキラ光るパールもフワリとしたレースもチュールも憧れたけれど、すべて身に付けて手に入れたのはセレネだった。
「そこでわたくしとイグニス様の結婚を発表いたしますわ。お姉様もいらしてほしいのです」
二人が結婚する……。返事をしない私にニッコリ微笑むセレネ。今度はイグニスも手に入れるのだろう。この可愛く愛し子に選ばれし特別な存在である妹は。
「イグニス様の幸せとわたくしの幸せを願ってくれますわよね?」
そう言い残して帰っていった。
机の上には招待状と冷えたお茶が残ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます