第11話 銀の鱗
ただいまぁと私が帰るとカイが汲んできた水の桶を置いて、駆け寄ってきた。
「お師匠様!仕事って……大丈夫でしたか!?」
心配そうにアイスブルーの目で私を見つめ、無事を確認している。カイの心配もそのはずで……カイと出会ったのは竜殺しの最中のことだったからだ。
竜に追いかけられていて、助け、雪山で拾った少年。それがカイだった。
「見ての通り、ぜーんぜん大丈夫よ!コレ、お土産よ」
「お師匠様、これは……まさか……」
「竜の鱗よ」
銀色に光る手のひらサイズのウロコをドキドキしたようにカイは触れてみている。
「すごいです。また倒したんですね。ウロコ綺麗ですね」
「綺麗だからあげたんじゃないわよ」
え!?と顔を上げる。
「それ一枚でいくらすると思ってんの?私が帰ってこなかったり、出て行きたくなったとき、それを持っていれば換金できるでしょ。換金用のウロコよ」
「なっ!?なんでそんな現実的なんですかーーっ!?」
ちょっと感動してましたよ。お師匠様と僕の出会った記念かと思ったのに……とブツブツ一人で呟いている。
そんな金にならない発想はない。
「じゃあ、いりません」
「どうして!?」
カイが返してきた。顔の表情も曇っている。
「これをもらったら、お師匠様、僕のこと、もういいやって思うでしょう?そうなってしまうと、お師匠様は帰ってこなくなるかもしれないし、僕が出ていってもひきとめないし、そんなものならいりません」
「……そういう意味であげたんじゃないのよ。言い方が悪かったわ。危険な仕事をしている以上、帰りたくても帰れないときもあるかもしれない。そのとき、カイがお金に困らないようによ」
そうなんですかと首を傾げる。
「そういえば、あの潰した箱!また何か通販したでしょう!?お師匠様、質素に暮らしたら危険なことしなくていいでしょうが!?」
「ふっ……何言ってるのよ。心の平安はお金も必要な時もあるの。私が愛してるのは『金』『自由』『平穏』よ!」
「そのお金は消せないんですか!?」
「好きなもの買えなくなるじゃないの」
眉を潜める自称弟子は思考がわからない!と困惑している。女子の物欲を甘く見ないでほしい!ショッピングは最高のストレス解消だもの。通販生活の新しい号の雑誌がそろそろ届いているはずよねとワクワクする。
「いつか……いつか……僕がお師匠様の好きなものを買えるように稼ごう」
そうカイがブツブツ言っているのが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
私があげた美しい銀のウロコを光に透かして見るカイは、あの雪山での私との出会いを思い出しているのか、それとも悠然と飛び、圧倒的な力を持つ竜を思い出しているのか?聞かずに、私はさっさと家の中に入った。
好きなことを好きなだけするわよー!と、背伸びした。なんて嬉しい時間なの!
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