第10話 竜殺し

 ゴオオオオオ!竜が息を吸い込む。来るぞー!と誰かが叫んだとき、吐き出される雪のブレス。


 白く広い雪山に逃げろ!という声が響く。


「なんの!」


 私は風の防壁を作って塞ぐ。守られた仲間がありがとう!と礼を言うと、手にしている剣や槍で飛びかかっていく。炎の弓矢で撃つ人もいる。四方から銀色の竜を取り囲んでいる。


「弱ってきたか!?鎖を寄越せ!」


 ヒュンと投げ、首にかけようとすると、逆にブンッと振り回されて、その男はふっ飛ばされた。


 ちょっと!?まだ早い!弱らせてからよ!かまってる暇はなく、私は眼前の竜から目を離せない。


「なんなの!?今回の竜殺しには初心者が来たの!?」

 

 危ないじゃないと、私が顔をしかめると隣にいた常連の仲間の魔女がクスクス笑う。


「どうしてもついていきたいって言ったらしいわ。竜殺しで名をあげて、お金持ちになりたいんですって!」


 なるほどと頷く。私は名声よりお金だけどね。確かに人生一発逆転できる機会ではある。


 アウラ!と名を呼ばれる。わかってるわ。そろそろね。


 私は銀色の暴れる竜を見据える。雪に足をとられるが、場所を素早く移動する。バキバキバキッと木々がなぎ倒される。雪煙がおこる。一撃で簡単に人間などふっ飛ばされ、大怪我か運が悪ければ死ぬ。


 だけど竜の素材は希少なもので、薬や装飾品などに重宝されるのだ。また野良の竜は村や人を襲うため、度々見かけると討伐を頼まれる。


 手に風を集める。ヒュンと耳を切るような風の音がしたかと思うと、剣や斧で切られたような裂傷ができ、暴れていた竜が上を向いてウオオオオオオンと声を上げて倒れた。そこへ畳みかけるように他の人達が攻撃する。

  

 しばらくすると辺りがシンと静まり返った。今回も無事に終えることができたようだった。先程ふっ飛ばされた男は他の人の肩を借りて歩いてるようだし……。


 場が落ち着いてから、顔見知りの魔女が私に話かけてきた。


「アウラ、今回も見事な働きね!あんた、子どもをひきとったんですって?一緒に暮らしてるって聞いたけど?」


「……どこからよ?情報早いわね」


「一人が良いってよく言ってるのに、そんな子ひきとって、育てられるのー?」


 むしろスーパー家政夫すぎて、逆に私が面倒見てもらってるような気がする。とは言いにくい雰囲気だ。


「勝手に居座ってるのよ。嫌になったらでていくでしょ」


 そもそも私は同居人とは認めてない。育てているつもりもない。出ていきたいなら引き止めないし、自由にさせておくつもりだ。


「可哀想ね」


 そう肩をすくめて魔女は、私から目を逸らして向こう側へ行ってしまった。


 可哀想?カイが?私が?


 可哀想なのはどっちのことだろう。寒い風がビューと吹いてきた。首元をギュッとしめた。先程まで感じなかった寒さに気づく。


 ――――可哀想なお姉様。

  

 ふと妹の声がした気がした。


 そう妹に何度も何度も言われ続けていたためだろう。可哀想か……。

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