第9話 本職は金のためにある

 カイがいないのに早起きしてしまった。なんかもったいないわね。せっかくだから、散歩でもしてこようかしら。


 メエエエと羊の鳴き声がして、羊飼いとすれ違う。『おはようございます』と挨拶をかわす。


「あっ!そういえば、こないだは迷子の子羊を探してくれ、ありがとうございました!」


 満面の笑みでお礼を言われて、羊を引き連れて手を振って行く。確かお礼にくれたのは羊毛で作られた温かなセーターだった。


 次にすれ違ったのは農夫だった。


「おはようございます。魔女さんの湿布薬、効きました。家内がずっと長年痛かった膝が治って、娘の子どものめんどうを見れる!と喜んでました。ありがとうございました」


 それは良かったですと私は笑って手を振る。湿布薬のお礼は、畑の美味しい野菜をたくさんくれた。


 世間一般で知られている魔女の仕事。それは意外と地味なものだった。私もある程度の薬を作ったりできる。それを売ったり物々交換で、細々と生きてる。


 え?その割にお金の羽振りが良くないかって?


 そうなのだ。私にはもう一つの顔がある。


 朝露に濡れた薬草畑。最近、カイがこまめに草むしりをしてくれるので、とても綺麗に整備されている。その風景を眺めていると、一羽の白い鳥が切り株にとまった。鳥の声が響く。


 クックルークックルー


 私の顔を眺めて首を小刻みに動かす。首元につけている小さい銀色の筒を取り外す。鳩はそれを確認し、飛び立っていった。


「そろそろ来る頃合いだと思っていたわ」


 紙切れを取り出す。そこに私への依頼が記されている。


「今回のものはかなり大物ね。でもそうじゃなくっちゃね!欲しいものいっぱいあるし!」


 通販雑誌の付箋をしてあるページは数しれずよ!


 でもね、次に狙うは私の推しのための演劇チケットよ!特別席に座るんだから。チケットとれるかなぁ……いやいや、そんな弱気でどうすのよ。絶対、推しに逢いに行くわよ!


 カイが帰ってくる前で良かったわ。ついていきます!とか言われたら面倒だったわ。


『仕事へいってきます。心配しないように』


 そう書き置きをする。黒のワンピースから黒い魔法使いが着用するスーツ風の服に着替える。素材は上質なもので、布地は伸びて動きやすい。つまり、戦いやすい服なのだ。


 荷物は最小限。クローゼットの中のものはさほど多くない。


 実は私の趣味用の部屋がもう一部屋ある。あそこは開かずの間になっている。カイが見たらうるさそうだから、鍵もしっかりかけて……かけて……。


 出かける前に鍵がかかっているか、チェックした!よし。これで安心して行ってくれるわ。


 さあっ!稼ぐわよー!

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