第7話 それには手を出すな!
なんかうまいものないのかー?
カチャッと無遠慮に冷蔵庫を開ける。
「人の家の物を物色しないでよっ!」
「うお!プリンがある。これ食おう」
「持ちなさいよ!それは私がお取り寄せしたプリンなのよ!『月に1000個売れる』『指定農場の牛乳と卵使用』の美味しいやつなのっ!」
「へー!すげー!いただきます」
「聞いてる!?それに手を出したら許さないわよ!」
カイがなんという低レベルの争い……と呟く。
「あの、ナハトさん、この3個セットのプリンならありますよ」
「馬鹿が!?ここまで聞いてそれを食べれと!?……まあ、それも食うけど」
カイが差し出したプリンを受け取る。それも食べるの!?
「ケチケチすんなよ。その代わり、困った時は助けてやろう。いつでも名を呼べ」
「随分親切ね。信用ならないんだけど?」
私を喰いたいというわりになんで……と問う前にニッコリ笑ってナハトは言った。
「おまえは俺のものだからな。誰にも触れさせない」
カターンとカイの椅子が倒れた。
「お師匠様っ!えっ!?イグニスさんじゃなくて、このナハトさんとできて……」
「違うわよっ!紛らわしい言い方はやめなさいっ!ナハトは3個入りプリンで十分よ!」
私はササッとお取り寄せしたプリンは片付けた。危ない。甘党魔族の餌食になるところだったわ。
「まあまあ3個入りのプリンも美味いな」
人の家の買い置きしてあるプリンを食べておいて、この言い草である。
「それで何の用で来たの?珍しいじゃない」
「理由などいるか?アウラの顔を見たくてきた」
カイが再びカターンと椅子を倒して立ち上がる。
「お師匠様って……」
「ちっ、違うんだってば!」
慌てる私にハハッと笑うナハト。からかってない?
「このあたりに俺じゃない匂いがする。気をつけろ。俺以外は入れるなよ。念の為、俺の印をつけておきたいんだが……」
私は目を細める。俺の以外の魔族がうろついているってこと?
「印って?」
「プリンも美味いけど、きっとアウラも美味いと思うんだよな」
ナハトが立ち上がって私の服の首元のボタンに手をかけて左手で自分の方へ私を寄せて……。
カイがお師匠様あああ!と叫ぶ。はっ!と我に返る。
させるかああああ!バキッといい音がして頬に右ストレートがはいった。
「痛ええええ!!なにすんだよ!」
「こっちのセリフよ!なにしようとしたのよ!?」
「食い物には唾をつけて印を刻もうと……おい、やめろ」
私の手に風の球体が生まれる。ナハトが落ち着けと言う。カタカタカタカタと家中が振動しだした。
「だれがあんたの食い物なのよっ!さっさと帰りなさいっ!この甘党魔族がーっ!」
「なんだよ!俺様の印がどれほど他のやつに効果あるのか知らないのか!?俺が直々に護ってやるなんて、今世紀最大のニュースだぞ!」
「ナハトのニュースの話なんて、どーでもいいわよ!」
「そう怒るなよ。やれやれ……帰るかな」
ナハトが最後にもう一度振り返って、ニッと笑って『ごちそーさまー』と言い残して出ていった。いなくなってからカイが私に尋ねてきた。
「お師匠様って、実は男たらしなんですか?」
「違うわよっ!……カイ、えーと、なんで半泣きなの?」
カイの純情そうなアイスブルーの目が潤んで私をまっすぐ見据えていた。なんだか謝りたい気持ちでいっぱいになった。
「なんでもありませんっ!僕もはやく大人になりたいです」
なにかしら?よくわからないけど、子どもに見せちゃだめなやりとりだったのかもしれない。今度、ナハトがきたら、お取り寄せプリンをあげてさっさと帰ってもらおう。そう思ったのだった。
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