第150話

 ―――― 今回はリンド=バーグ視点の回です ――――


ミーシャの庇護保証人になった訳だが……相変わらず見ていてドキドキの連続だ。いや、面白いには面白いんだが。研磨ノートをつけようなんて言い出す辺り、最高じゃないか。研究ノートがあれば失敗も成功も次回に繋げられるし、他人と情報共有出来るのがまたいい。本職にするのか片手間にするのか分からないが、鉱石や魔物素材の研磨をしたら完成品が出来る訳で、蒐集品として溜め込むのでなければ売却する事になる。


鑑定書が付いた宝石や研磨済み魔物素材は珍しくない。金さえ払えば鑑定能力持ちに書いてもらえるからな。だが、作業ノートとなれば話は別だ。次に作業する職人にとってどれほど有り難いことか…。おお鍛冶師の俺ですら有り難いと感じるのだから、錬金術師や付与術師だったら尚更だろう。


どうせだったら、バサルトタートルの甲片の時や魔石滓のやらかしの時もノートに書いていてくれれば良かったのに…。



紫萌肥しアルファー・アルファー】を食べだした時も、髭無し【穂先キビ】を食べだした時も焦った。そして実際食べてみたら美味かった…。まぁ、そこまではいい。そこまでは。拭き草の茎だぞ、拭き草!! 未処理・未使用の拭き草の茎を使うとは言え…拭き草だぞ。そもそも拭き草は救荒植物リストにも入っていない。茎は下茹して皮を剥いてから食べるのだという。茹でただけのものを齧ってみたが、野草特有の青臭さは感じられるものの普通に食える。ベーコンと炒めたら美味かった。今ここにマリイン=リッジが居ないのが悔やまれる。是非ともあいつに食わせてやりたかった。「これ、葉はドワーフが拭き紙に使って、茹でた茎はエルフに売り付けられるね。『森の恵みの杖』とか適当な名前を付けちゃって。ヒト族にも売り付けれそうだけど」とか絶対言ってくるぞ。


それで…だ、何故そこから『鶏足モミジ蛙手カエデ』の樹液から砂糖を作る話に繋がるのかが理解できない。職人は自由発想を大事にして既成概念に捉われない様に…と口酸っぱく聞かされたものだが、ミーシャを見ていると改めて反省しなくては…と思ったよ。多分、ガルフ=トングも同じ事を感じていただろう。あいつにも拭き草の茎を食べさせてやりたかった……。


拭き草の茎を砂糖漬けにする話には興味が湧いた。俺が食べたいとかではなくて商売のタネ的な方でだ。【鉱夫飴】は基本ドワーフ用に売って一部を外部売りに回し、拭き草の方はメインを外部売りにすればいいじゃないか。どうしても用足し草のイメージが有るからドワーフ側の固定概念を払拭するには時間が掛かる。でも、エルフやヒト族相手になら売れるハズだ。水煮の茎は瓶詰めにしておけば保存食になるみたいだから、それもヒト族相手の商売になりそうだ。近い将来、紙芭蕉栽培に続き拭き草栽培も始まるのかもしれない。


後は…商隊や馬車移動の旅や、冒険者が現地で食材採取に使えるのがいいな。荷物が嵩張らないのは大事なことだ。今度アリサに試してもらおう。



さて、俺も湯に浸かってくるか…



幸い、風呂を利用する男性客は三人のみだった。大騒ぎさえしなければ他の利用客や管理人にも聞かれないだろう。


「遅かったのう」


「このままだとパイク=ラックが茹で上がる」


「スマン。ちょっと考え事をしていたら遅くなった」


「考え事とはミーシャの事かの?」


「ああ。あの辺境警備地を出てからも発明発案の嵐だったなぁ…と思い返していたら予想以上に時間が経っていた」


「俺は後二日、気が重いよ」


「拭き草にはやられたのぅ」


「それね…。絶対商売になるやつだから、追加報告必須。しかも、なる早で…ときた。砂糖案件もヤバイ」



俺以外も同じ様な感想だった。心持ちパイク=ラックが楽しそうに見えるのは、植物案件だからなのか、ミーシャのやらかしだからなのか…。


「やはり、エルフやヒト族相手の商売になりそうなのか?」


「エルフは用足し後には『朴木蓮ホウ』の葉を使っているらしいし、ヒト族は雑紙だから、拭き草が不浄なイメージは無いハズ。それより、ヒト族の商人には “ 先が見通せる縁起物ですよ ” と言ってやれば確実に売り捌ける」


「拭き草の茎の穴から向こうを見てるだけじゃないか」


「向こうの見える茎と言うのが珍しいんじゃ」


「息も吸えるな」


「それ、そのネタ頂き!! “ 息も出来る ” も付け加えよう。 “ 先が見通せて、商売が行き詰まらない ” 縁起物だ。砂糖漬けだけでなく、商隊の携行食に使ってもらえる。ヒト族はゲン担ぎが好きな奴らが多い」



「それとだな、【運馬ウマ】という生き物はあんなにポクポク【運馬石ウマセキ】を落とすものなのか?」


「無い、有り得ない。魔物が渡して来る素材は、レア度なら【人魚の涙】が一番高い。次が【龍/竜の逆鱗】と【不死鳥の羽】。それから【巨鯨石アンブレー】や、ユニコーン、バイコーンの角こと【馬刈角バッカルコーン】。【運馬石ウマセキ】のレア度はカーバンクルの【柘榴珠アルマ】、大蛤の【蜃露珠しんろしゅ】と同等だね」



スラスラと羅列される素材名は聞いたことはあるが、殆ど目にしたことはない。ホーク=エーツが知らないのなら文献記録にもあまり載ってないのだろう。



「ワギュとラパンの二頭じゃが、ミーシャの従魔登録を掛けたほうがよさそうじゃな」


「後々面倒くさくなるとアレだからな」


「【紫萌肥しアルファー・アルファー】【穂先キビ】の情報提供代で譲渡権利は買えそうだよ」



さて、逆上のぼせる前に風呂から上がらねば。パイク=ラックだけでなく俺も茹で上がる。



――――――

(誤字修正)


(誤) 不要術師

(正) 付与術師


不要術師って、どんな術師だよ……(苦笑)




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