第143話
今日のうちに腐らない食料と盗られても買い直せる荷物だけ馬車に積んでおいてもらった。まぁ盗難される事はそうそう無いと言うことだけど。腐ったら困る食料は有料の保冷の保管庫に預けてある。普通はパイク=ラックさんみたいなスキル保持者が居ないので保冷の保管庫を使う。経過時間遅延や経過時間停止の機能が付いたマジックバッグもあるそうだけど、それはどちらかと言えばランクが上の冒険者や特殊素材を仕舞うために使っていると言うことなので諦める。「俺はアダマンタイトと生のサモンの切り身が一緒にマジックバッグに入れられても気にしないが、鍛冶師の長老連中は滅茶苦茶に怒ってくるぞ」とリンド=バーグさんが言ってたけど。
パイク=ラックさんは
【馬油】はヒト族領だと軍馬やら騎馬隊や馬車で亡くなってしまう個体が多いので割合安価で流通しているという。逆に【
そうだ、小麦粉を買ったのでその気になったらウドンが作れるぞ。出汁がないからなぁ……って、前世でどこかの県で釜揚げウドンに生醤油を掛ける食べ方があると聞いたことがあった気がする。
今日は早目にお風呂も済ませた。『ビレッジアップ』最後の晩御飯は宿の食堂でアッサリと。【黒
「詳しい話は馬車の中でするけど、『スワロー』に着いたら大変だから。特にミーシャが」
「俺達も呼ばれるだろ?」
「何日かはね。ミーシャよりは少ないかな? 場合によってはガルフ=トングを召喚しないといけなくなるかも」
召喚するってピーラーとかタワシの説明のためかな? 『関所の集落(仮)』に派遣されてるのを本拠地に呼び戻す訳だから、実は召還なのかもしれないが。
そのままお開きになって俺は部屋に戻った。普段なら早寝しないで石磨きをしちゃうところだけど今夜は荷物を確認したら早寝をする事にした。
ああ、ヤングコーンは美味しかったなぁ…とか思い出してたらウトウトとしてきて………知らないうちに寝落ちしていたらしい。
らしい……って、夢の中だから。
–––––––––
「……さん、ミー ャさん ………」
誰?
「ミー シ さん、私です。聞こ…え てます…か?」
えっ!?
「私ですよ、私。私のこと忘れちゃったの?」
異世界にもオレオレ詐欺があるのかよ……えっ、違う!?
ガバっと跳ね起きる。宿で寝ていたハズなのに、目の前に広がるのは白い空間だ。
「へっ…。ぅ゙えっ!?」
思わず変な声を上げてしまった。おっ、俺、死んでないよね???
「お久しぶりですミーシャさん。今日はミーシャさんに報告があって不躾ではありますが、お呼びしてしまいました」
「えっ? まさか…AIさん!?」
目の前の女性の胸元に下がるペンダントに見覚えがあった。転生直前のあの時、白い空間で最後にAIさんに手渡したルチルクォーツのペンダントだ。
「そう呼ばれていた頃もありました…」
「AIさん、AIさんなんですよね」
目の前のAIさんは優しい微笑みをたたえている。
「私、
「AIさん、おめでとうございます。凄い…」
「それで、今の私には【見守る者】以外の呼び名がありません。AIの名は引き継ぎの者に渡してきましたので…。ですのでミーシャさん、私の名前を付けて頂けませんか?」
「俺が? あなたに、【見守る者】に名付けをしていいんですか? 後悔しません?」
「ふふっ、素が出てますよ」
「あっ、つい…」
そうか、AIさん神様の一柱になったのか…。
「【見守る者】…、前世だったら見守る役目は……緑のおばさん?」
「緑の……、緑のおばさん?」
「あっ、それは前世で通学時の子供が事故に遭わない様に見守ってくれる女性の通称でして………」
「そんな方達がいらっしゃるのですね」
緑か…グリーンじゃ味気ないし、リュウやグリューンもなぁ……。緑、緑、あっ翠も “ みどり ” か。翡翠の翠だな。そうだ、
「【見守る者 ヤーデ】はどうでしょうか? 意味は翡翠。全ての命の傍に在って見守ってくれる
そう、翡翠には様々な色が有る。でも一般的な色のイメージは緑色だから……いいよね?
「ありがとうございます。素敵な名前です。名付けの由来も素敵ですし。今から私はヤーデ、【見守る者】ヤーデです」
「あの…ヤーデさん、見守ってくれてたってどの辺りからですか?」
「あら?私の声が聞こえてませんでしたか?」
まっ、まさか……、あの肉まんとかヨイフロとか、あれ全部AIさん改めヤーデさんの仕業…じゃなくてメッセージだったの!?
「ハイ、キコエテマシタ……」
「ミーシャさん専任とはいきませんが、これからも見守らせて下さいね。それではドワーフの愛し子よ、
そう言うとヤーデさんの姿は消えていった。いつか翡翠を拾ってお供えしよう。そう心に誓った瞬間、俺の意識は遠のいていった………。
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