第141話

パイク=ラックさんは最初の一個をスキルオフで作った後はスキルぶん回し状態で魚籠ビクを量産していた。これを銘材店に持って行くのは中々大変そうだぞ。


「パイク=ラックさん、結構な数ですよね…」


「材料費抜きで一つ銀貨四枚は旨味があるのでな。小遣い稼ぎをしてしもうた」


いや、それはの量じゃないです。明らかに稼ぎ目的です。


「明日の夕方に回収に来てくれるから沢山作っても安心じゃな。これから一つ見本を納品して、まだ数が要る様なら追加の材料を宿に配達してもらうつもりじゃ」



銘材店に見本を納品の後、馬車組合に寄ってから晩御飯の店に行く事になった。追加の魚籠ビクは幾つでも…と言われたそうなので、追加の【魔多々媚またたび】蔓が宿に届くそうだ。パイク=ラックさんは「フォッフォッフォッ、腕が鳴るのぅ…」とか笑っていたから、多分、材料を全部使い切るつもりだろう。そんなにスキルを使ってMPが大丈夫なのか聞いてみたら、「誰のせいでMPが増えたと思っておるのじゃ?」と返された。理由=冷やしエール、パネェな。



馬車組合に着いたら入り口に餌の植物が山盛りに積まれていた。『対物簡易鑑定』したら


髭無し【穂先キビ】:前世のトウモロコシを間引きしたもの。ヤングコーン。新鮮な物は生食可。


と出た。あれ、トウモロコシだったんだ。しかもヤングコーン!! 言われてみたら確かにトウモロコシの外葉だ。ヤングコーンの頃ってヒゲはまだ生えてないんだな。つまりあの外葉を剥がしたら中にヤングコーンが……。いいなぁ、ヤングコーン。八宝菜に入ってるのが好きだったよ。それより、トウモロコシもヤングならにするのかよ。ニュアンス的にドワーフにしか通じなさそうだ。


「これはパイク=ラック様、リンド=バーグ様、ミーシャ=ニイトラックバーグ様。馬車のご予約でしょうか? 今【運馬ウマ】達にこの餌を与えたら手続き致しますので暫しお待ち下さい」


「俺達も手伝うぞ」


「ありがとうございます。非常に助かります」



全員で【髭無し穂先キビ】を抱えて【運馬ウマ】の前に行く。俄に【運馬ウマ】達が騒ぎ出したのは、この間引きトウモロコシのせいなのかな?



「これ、新鮮ですね」


そう言いながら外葉を剥がしていくと中には小さなヤングコーン。とても瑞々しい。これ、生でイケるな。


パクッ ポリポリ…… うん、美味い!!


「ほれ、おいひいれふ…」



何故だ!? 俺が生ヤングコーンを美味しく頂いている姿に全員がドン引きしている様な……。そしてポニー達が緩やかに頭を上下させ始め、次第に激しく振り始めた。



「はいっ、ワギュ。ラパンも食べる? あ、スノウもヤジイも慌てないで。他の皆にもハイッ」


運馬ウマ】達は喜びながら【髭無し穂先キビ】をモリモリと食べ始める。ラパンが徐ろに近寄ってきて鼻先を擦り付けてきた後、甘噛みしてきた。


「何と申しましょうか、先日同じ様な光景を見た様な気がするのですが……」


「だな」


「じゃな」


ヒヒーン!! ブルルッ


「違うのは、今ここにホーク=エーツが同席していない事くらいか?」


「私は髭無しの【穂先キビ】が食べられることを今初めて知りましたよ。これは商業ギルドに報告しておきましょう。いやー、ここにあの文官殿が同席していないのが実に残念だ」


「居たら居たでキレてそうだが…」




それから馬車の予約にまわる。二頭引きで大きめの車体の物をお願いすることになった。担当してくれるポニーはワギュとラパンだ。そして御者ゴーレムもレンタルする。代金は金貨二十枚。結構なお値段だけど、日数と人数で割れば一日辺り金貨一枚程度だからそこまで高価なわけでもなかった。


「たまに乗客より荷物のエールの方が多いお客様がいらっしゃいますからね…」


あ、やっぱりエール優先で馬車を借りるドワーフっているんだ。



–––––––––––


――― Side:【運馬ウマ】 ―――


「あっ、ミーシャちゃんだよ!!」

「ホキビだ!!」

「やったー、ホキビだ」


外葉べりべり  中身ポリポリ……


「ちょっと待って、ドワーフってホキビ食べるの!?」

「前にもあったな…」

「ちょ…、待て!! 俺たちにも喰〜わ〜せ〜ろ〜!!」



「そっかー、ワギュちゃんとラパンが担当かー」

「ラパン、頑張れよ」

「相手は【運馬ウマ】の餌を食べるドワーフだよ。ワンチャンあるって」



頑張れラパン。ちなみにミーシャは君の気持ちに全く気づいていないぞ。

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