第140話

「すまんすまん、つい楽しくなってしまってのぅ」


パイク=ラックさんが頭を掻きながら謝ってくる。まぁ作業に没頭したら周囲が見えなくなるのはよく分かるので気にしません。


そして、パイク=ラックさんが【魔多々媚またたび】細工は久々なので魚籠ビク作りは三毛皇みけおう閣下のお仕事前にいいリハビリだって言ってたけど、それってどう見てもリハビリってレベルじゃない仕事なんだけどなぁ……。


「そうだ、パイク=ラックさんに質問したいことがあるので晩御飯の時に聞きます」


「今でも良いんじゃが」


「急ぐ話ではないので大丈夫です」



それから俺の部屋に戻ってリンド=バーグさんに砂利の鑑定結果を伝えることにした。


「まさか全部鑑定するとは……」


「えつ!? 『対物簡易鑑定』で鉱物名は出ましたよ」


「俺はこれとこれ…ミーシャが安山岩アンデサイト玄武岩バサルトだと鑑定したものが分からなかったな。俺の場合、凝灰岩タフは砥石だから分かったと言うか、鑑定しなくてもこれは砥石だろうと判断したというか…。ミーシャ、『スワロー』に着いたらスキルオーブを使ったほうがいいぞ。多分、『対物簡易鑑定』が育ってるか別の鑑定系スキルが生えてる可能性がある」


「分かりました」


「それより、これがバサルトタートルの名前の由来の岩なのか…」


「やっぱり関係あるんですね」


「バサルトタートルの肉の色がこんな感じなんだ。見た目の色は悪いが味はいい。煮込みにすると最高で、それ以上に肝が……滋養強壮というか、まぁ…何と言うか……、そのだな…」


ん???


「精が付く」


あ、精力剤の方か。


「分かりました。口にするチャンスがあってもボクはお肉だけにしておきます」




「それよりこの赤鉄鉱ヘマタイトって精錬したりします?」


「もう少し量が有れば精錬して製鉄する。鉄の精錬の基礎が学べるぞ」


やっぱり素材の一つだったよ。


「黒曜石はやじりとか用ですか? それともガラスの材料?」


「最近はあまり使われなくなってるが、簡単に割れるからやじりとか武器の先端部には使ったりはする。マーマンが槍の穂に使うっていうのは聞いたことがある」


「金属だと海水で錆びるからですね」


「それもあるが、天然ガラスは水中で見えにくくなるからの方が主な理由だろう」


それは怖いぞ。見えない刃物ってのは中々に厄介だ。


「後、ガラスの材料には……ちょっと拗らせたガラス職人なら使うかも…? ってところだろう」


来たぞ拗らせ系。


「あ……」


「態々、黒曜石を取ってきてガラスにしなくても珪砂の方が費用対効果コスパがいい。それより土魔法でガラスを作った方が安上りだぞ」


「土魔法で作れるんですね」


「陶芸ドワーフとか建築ドワーフだったら習得してるハズだ。後、錬金術師は習得してる。魔石滓から魔導ガラスを作れる様になる前に習得させられると聞いた。まぁその辺りの話は俺に聞くより職校に行って聞いた方が詳しく教えてもらえる」



あ、珪砂で別なことを思い出した。金剛砂だ。金剛って字を使っているけど金剛石ダイアモンドではなく、金剛砂は柘榴石ガーネットの粉末状の研磨剤だ。鋼玉コランダムを含むものも有るけど。まぁ、微細粒子のルビーやガーネットを材料にした研磨剤だ。もちろんこれも粒子の大きさで番手が有るわけなんだが。


「リンド=バーグさん、【金剛砂エメリー】って使ってますか?」


「【金剛砂エメリー】は使うけど、使うドワーフのスキル依存になりがちな研磨剤だな」


「スキル依存ですか? 何か特殊なスキルが必要なんですか?」


「砂の中から微細結晶をより分けるのが大変だから、『金剛砂分離』を取得していないと集め辛い。後はフェアリーでもデミ種に採取を依頼するとか……」


そうか、回収問題があるのか…


「それはちょっと手間かも。特にフェアリーに依頼だとコスト面も掛かりそうです」


「フェアリー相手の報酬は、美味しいお菓子を渡すとか、宝石を研磨してやるとか、小さい武器を作ってやるとかでいいからそこまではないんだが、あいつらは気分屋だからなぁ…。納期命の職人とは相性が悪い。それよりミーシャは『分離』スキル持ちだから頑張って取得してみたらどうだ? 集めてくれるのなら俺が買う」



うっ、藪蛇か? でも、鉱石や宝石研磨が趣味の範疇レベルにしかならなくとも、木賊とくさ栽培や金剛砂エメリー集めとかで最悪生計は立てれるのでは? 後は、鉱石鑑定だな。でもそれだとスローライフにはならないか……。


「砂の中から【金剛砂エメリー】を分離するのって、スキルが有っても大変そうなイメージがあるんですけど…」


「それは最初だけだな。どちらかと言えば使用後の研磨滓から【金剛砂エメリー】を再回収する仕事の方が多い。こっちはフェアリーが苦手な部類だから…」


それは覚えておこう。



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