第二章

第126話

荷物を背負いポニーに跨る。使ってないけどバトル・ピッケルも装備した。特に危険な魔獣は出ないらしいが念の為。実はこの辺りで一番危険な獣は熊と成獣の猪。繁殖期の雄鹿もそれなりに危険らしい。それでも【運馬ウマ】が四頭もいるから近寄っては来ないとのこと。リンド=バーグさんの武器は戦斧バトル・アックスで、ホーク=エーツさんの武器は意外にもショートソード。そしてパイク=ラックさんの武器はまさかの釘バットナーゲル・コイレだった。



ワギュに【襷着るタスキル】を掛けてもらい、『ビレッジアップ』にいざ出発!! 時間は大体十時過ぎといった感じ。ドワーフ的には “ 宿酔いが覚める時間 ” とも言う。(但し、ホーク=エーツさんを除く)


特に何事が起きる事もなく、【運馬ウマ】達は並足ウォーク速歩トロットを使い分けながら街道を進んでいく。街道とは言うものの俺には前世の林道にしか見えないんだけど。しかもあまり整備されてない林道。出発してすぐ酔いそうになったけど、前世ならマウンテンバイクでオフロード走行中だと思ったら少しだけマシになった。勿論、状態異常を回復するポーションは飲んだけどねっ。


そして、昨夜調理出来なかった鰻こと【蛇魚】は魚籠ビクに入れられ押し付けられました。「ミーシャなら丸焼き以外で食えるだろ?」とはジョー=エーツさんの弁。「良かった。の煮込みは少し苦手で…」とファイン=ロックさんが続けた。その調理方法は俺も嫌です。醤油と水飴もあるし、薬味の山椒もあるので蒲焼きでも白焼きでもイケるよ。勿論、鰻に関してはシロウトだから当然下手くそ調理なんだけど、丸焼きとか煮込みよりはマトモ料理だとは思う。白焼きで蒸留酒のお湯割りを飲むやるとか美味いと思うのですよ。



昼も過ぎたのでポニーを休ませがてら俺達も昼食を取ることにする。手早く済ませたいのでお弁当として持ってきた大麦パンのサンドイッチ。夕べの残りのブロッコリーをペースト状にした物やマッシュポテトを挟んである。勿論、野菜サンドだけだと口さみしくなるので猪肉の簡易ベーコンも挟んであるけど。塩茹でした猪の三枚肉をスモークしただけのなんちゃってベーコンね。後はキュウリを丸齧り。キュウリを食べているとワギュが「これ食べる?」といった表情を浮かべながら街道脇に生えている【紫萌肥しアルファー・アルファー】を引き千切って持って来た。大丈夫、間に合ってます。




「叩き【細長瓜】には【具入り細辛油ほそからーゆ】が合うんだな」


【細長瓜】は前世のキュウリだ。どうせなら棒々鶏が食べたいなぁ。あと、細切りにしたキュウリを竹輪の穴に詰めたい…。竹輪って魚の練り物だから俺でも作れなくはない。いい感じに擂り身に出来そうな魚が手に入ったら挑戦しよう。そうしたらほら、竹輪の穴ににキュウリ詰めたりチーズ詰めたり出来るじゃん。そして竹輪の天ぷらにはビールが合うぞ。冷やしエールに竹輪の天ぷら。


竹輪の天ぷらか…、海苔弁への道だな。尤も、海苔が存在する保証は全くないんだけど。




「それで、【あか茄子】の追熟塩梅はどんな感じ?まだまだ?」


「儂はまだまだじゃな」


「ボクも特に変化無しかな?」


「俺のは…微妙だな。変化が出るにはまだ早いんだろう」



実は、移動中に【あか茄子】の追熟実験をしているのだ。パイク=ラックさんの秘匿魔法こと『温度調整』。俺の『汎用魔法』の『保温』。リンド=バーグさんの私物の保温の魔道具。移動中にそれぞれ違う方法で保温して効果を見ることにしたという訳。



ドワーフは四人、トマトは三つ。一つ足りなーい!! 一応、完熟しない限りは酒で割らない紳士協定は結んであるけど守られる保証はない模様。まぁ、ホーク=エーツさんというストッパーがいるから『ビレッジアップ』に着くまでは全員酒は慎む事にしてある。リンド=バーグさんの荷物の中には『生命之水蒸留酒』が入っているので酒を飲めなくはない。



それからまた移動を始める。この先、大体明日の夜から天候が荒れる予定だ。話し合いの結果、今夜は野宿しないで徹夜移動をしたほうがいいんじゃないかという事になった。幸い、ドワーフも【運馬ウマ】も夜目が利く。ポニー達に「今夜頑張ってくれたら、明日のお昼の休憩の時に【食用マンドラゴラ】をオヤツに出すのと、タワシでブラッシングするけど…ダメ?」と交渉してみたら快諾してくれた。タワシはガルフ=トングさんが追加製作してくれたので、ポニー用が四つ。提出用の一つは未使用でないとマズいのでそちらはマジックバッグに仕舞ってある。



移動再開。暗くなるまでは速歩トロット、星が出る頃からは並足ウォークで進むそうだ。まぁ進行具合はポニー次第なんだけど。



―――――――――――

(作者注)


パイク=ラックの武器を釘バットと表記してありますが、形状としては釘打ち棍棒。鬼の金棒の木製バージョン(釘は金属)だと思っていただければ。

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