第127話

道中は不気味なくらい順調。いや、変なトラブルもイベントも不要だけど。「平和ですね」と言ってみたら「紛争地でも魔物の棲む洞窟ダンジョンでもないからな。所詮ただの街道だぞ」と返された。



「ミーシャは洞窟ダンジョンに興味があるのか? それなら俺の相方を紹介するぞ。アリサなら喜んで連れて行きそうだ」


「相方さんですか?」


「アリサ=ランド、リンド=バーグの奥さんだったよね。今は洞窟ダンジョンに潜ってるハズ」


「そろそろ出て来るんじゃないか?」


「チーム『地底』じゃったか? ヒト族の表現なら『C級パーティーの地底』じゃな」


「アリサの所属パーティーは採取がメインだからな。討伐記録が少ないからヒト族の冒険者

ギルドのランク付けだとC級止まりだ」



おっ、新情報だ。



「あの…採取メインで活動出来るものなんですか? 冒険者って魔物を討伐してナンボなんじゃ?」


「まぁヒト族はそうだな。逆に討伐以外の依頼は人気が無くて余るからな。採取依頼をこなしつつ素材を集めに行くのがドワーフ流の冒険者生活だ」



確か、白い空間で覚えておいた知識によると、亜人も獣人もフリーで冒険者稼業は出来るけど、トラブル回避のためにヒト族の冒険者ギルドに登録しておくべき…だったな。



「『地底』ってことは女性限定パーティーですか?」


「女性五人のパーティーで、リーダーがチーウ=エーツだ」



まさか、そのチーウ=エーツさんって……、



「エーツ四兄弟の末妹にして長女。チーウは俺の妹」


鉱山ヤマ系の探索はエーツ氏族がいると格段に安定するんだよ。ちなみにアリサの出身のランド氏族は冒険者の家系だ」


「そうなんですね」


「チーウ=エーツは悪いではないんだが、隙あらば『地底』を『エイドパス鉱山』に連れて行こうとするのが玉に瑕で……」



それってお兄さんジョー=エーツさんと一緒。



「機会があったらボクも採取にご一緒させてもらいたいです」


「多分、チーウが嬉々として『エイドパス鉱山』に連れて行くと思うよ」


「それはちょっと…」


「あそこは面白い鉱石が出るんだよなぁ。それこそ宝石ジェムクラスのやつも出る」


「本当ですか!!」


「俺は勧めないが………」


良くも悪くも気になるじゃないか。





夕飯は芋麺炒め、茹で【茄子花芋】、あと水煮ナメコならぬ水煮【スライム茸】を入れた汁物。ポニーは近くで野草を食べている。



「芋麺は携行食として優秀だな」


「お湯に水煮【スライム茸】を入れ、魚醤と【粗相豆】を少々で味付けしたスープに刻み【山葱やまネギ】を入れる。斬新なスープだ」



それはナメコの澄まし汁風です。本当は豆腐も入ったお味噌で食べたいところ。



「で、追熟は?」


「魔法を常時発動させていれば可能なのかのう?」


「少しは赤くなってるみたいです」


「保温の魔道具が一番安定してるんじゃないか?」


「七割熟したところで収穫し、輸送後に使う場所で追熟させるのが流通的によさそうじゃのう」


「追熟出来たところで【血の海ブラッディ・オーシャン】が飲める訳じゃないからな。さあ出発しよう」




ポニーに跨ったらいきなり街道から逸れ、さっきまで草を食べていた辺りに連れて行かれた。


「何か見つけたな」


「どれ…」


パイク=ラックさんが下馬して草むらを確認しにいった。暫くすると長細い根菜を両手に握りしめて戻ってきた。


「【不叫さけばずマンドラゴラ】じゃ!! ポニー達、お手柄じゃな」



『対物簡易鑑定』の結果は 


不叫さけばずマンドラゴラ】 前世の薬用人参。薬の素材になる。『生命之水蒸留酒』に漬け込んでもよい。【運魔ウマ】の大好物。


叫ばないマンドラゴラって…(笑) そしてやはり【運魔ウマ】の大好物なんだな。


ドワーフの取り分は一本だけにしておいて、残りはポニー達の美味しいオヤツに。その脇でメモを取るホーク=エーツさん。群生地は保護の観点からも記録を取るのが決まりだとか。後で必要分だけ採取にくるんだろう。そしてパイク=ラックさんがトマトの追熟を止め、代わりに【不叫さけばずマンドラゴラ】を冷蔵保存し始めた。誰も文句を言わない辺り優先順位は当然ながら薬用人参の方が上に決まっている。



そのまま夜通し並足ウォークで進んだ。眠くならない様に時折、四方山話を交えながら。分かったことは、リンド=バーグさんと奥さんのアリサ=ランドさんは幼なじみ同士で結婚した事だとか、パイク=ラックさんの奥さんは塗料を専門とする氏族のドワーフだとか、ホーク=エーツさんが独身だとか。後、カーン=エーツさんは商業を手広く手掛けているドワーフなんだとか。売り出したい商品があったら預けておくと、いつの間にか次の注文を取ってくる凄腕の営業マンらしい。



気付いたら月の姿は無く、東の空が白んできていた。

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