第82話
「それで、そのデンプンをどうすれば水飴になるのかな?」
「大麦麦芽を使います」
「エールの材料の?」
「はい。デンプンに水を加えて加熱し、ドロッとさせます。そこに乾燥麦芽を粉末にしたものを加えて一晩ほど保温すれば薄い水飴が出来上がります。それから加熱しながら練っていけば粘度の高い水飴の完成です」
「へえ、エール作りの派生みたいな感じなんだね。しかもエール作りよりもずっと簡単だ。大麦麦芽も簡単に手に入るし」
そりゃー、ドワーフ界隈なら大麦麦芽は標準装備でしょうよ。
「そして、水飴はポーション瓶に詰めておけば日持ちします。販売や贈答品にも便利かと。こぼれなければ詰めるのには安価なガラス瓶でも大丈夫です」
「あと、水飴に煎った大麦粉を練り込んだものがこの【鉱夫飴】です。大麦粉以外にも胡麻やクルミやドライフルーツを混ぜ込んだりも出来ます。煮た大麦粒や小麦粒を干した物を混ぜても良いと思います」
本当はきな粉やポン米を混ぜ込みたいんだけどね。駄菓子食べたいよ、駄菓子。
「【鉱夫飴】、それが一大事業なんだよね?」
「はい。ボクは出来上がった【鉱夫飴】を長期保存というか湿気ない為に蝋引きした【芭蕉紙】で包もうと考えたんです。そうしたら、皆さんがデンプン作りから始まって水飴作り、【鉱夫飴】作り、更には包むための【芭蕉紙】加工に至るまで、一連の大事業になる……と。職人見習いの修業だけでなく、引退勢の仕事にもなると……」
「という訳で、次は儂の家に移動じゃ。【鉱夫飴】の包装に関しては儂の家に素材と道具一式が有るのじゃ」
「あ、それで兄貴が大騒ぎしてた訳か。飴だけじゃないのか…。それはどうみても大騒ぎするしかないよ。確かにドワーフが独占出来る一大事業になり得る。まぁ、いずれは他種族に知られるんだろうけど、ヒト族に対しての特許関係は先に手を打てばいいだけだ」
冷静を装ってるけど、ホーク=エーツさんの顔は引き攣っている。多分、脳内では高速演算処理が行なわれているに違いない。
パイク=ラックさんの家で蝋引きの【芭蕉紙】で【鉱夫飴】を包装する実演が行われた。
「それでじゃな、ミーシャは銘代わりに “ 元祖【黄金虫】印 ” を付けたいんじゃと。ほれ、さっきの土器の焼印を見せるんじゃ」
「ボク、悪目立ちしたくないんで発案者とか開発者とかに名前を残したくないんです。デンプンも水飴もドワーフ全体の宝にして欲しいですし。数年したら【鉱夫飴】の作り方が広まりますよね。そうしたら純正品も粗悪品も出回るじゃないですか。その時に、元祖【鉱夫飴】はこれです的な印を付けておきたくて。道具と違って銘が残らないから包装の【芭蕉紙】に焼き鏝印を付けたいんです。ボクは土魔法の『土器』が得意なのでそれで焼印を作りました」
「まぁ、登録書類の原本にはミーシャの名前は載るけど、広めたくない旨を記しておけば発案者および考案者の一般バレはしないよ」
ホーク=エーツさんが「仕事だから仕方ないけどクソ兄貴……」「クソ面倒くさい……」とかボソボソ呟いてる。俺のせいですね、ごめんなさい。
「それで、登録案件はこれだけじゃないんだよね?」
青ざめた顔でホーク=エーツさんが尋ねる。
「そうだなぁ、あれと、これと、あれとあれが……」
「おい、兄貴!!」
「ホーク、多分両手の指の数で何とか足りると思う……」
ははっ…と軽く笑う六人と、引き攣った笑いを浮かべる三人だった。
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