第46話
「あ、ジョッキに冷却の魔法陣を刻むって話に関連するんですけど、保温の魔法陣を使った調理器具や食器類って有るんですか? 無ければそれも対で作ってもらったら…」
「保温の魔道具はエール造り用のだったら有るぞ。それ以外では料理の保温に必要性を感じたことがないし、魔道具に使う魔石代より竈で温め直しに使う薪代の方が安いから一般的には普及してないな」
「エール用には有るんですね」
ドワーフ、酒好き過ぎるだろ!! …と、思わず苦笑いしてしまった。
「魔道具を使わなくても保温出来るが、そこはやはり美味いエールにしたいからな…」
それ、是非とも水飴作りでも使って貰おう。
……!?ちょっとまって、保温箱って将来的にコメが見つかったら炊飯器の保温機能代わりになるってことじゃ!!ドワーフが複数人集まったら炊飯器もどうにかして作り上げてしまいそうな予感がするぞ。
「あの……マリイン=リッジさんにちょっとだけ質問があるんですけど、コメって穀物はありますか?もしかしたら、ライスとかベイコクとかハクマイとかミーとかメイ……とかと呼ばれてるかもですが」
「コメ?どんな穀物だ?名前が違っても特徴が分かれば知ってる作物かもしれない」
「田んぼ…いや湿地で育つ穀物で、脱穀精製したら麦とは違って真ん中に筋はないです。煮炊きしたらモチモチというかベタベタするというか。水が多すぎたら煮えたものがドロッとした糊みたいになって、後、粉でパンが出来ません」
日本人だと日常的に米が存在するのが当たり前すぎて、米を説明するのが上手くいってる気がしない。
「あ、それは【白濁酒】の材料だろ。【濁穀】だ」
流石ドワーフ! 何でも酒に結びつける事を平然とやってのける。そこにシビれる! あこがれるゥ!! …って、俺もドワーフでしたわ。
「【白濁酒】ってお酒が有るんですね」
ヤバい、炊きたてご飯の前に日本酒情報ゲットだぜ。
「有るけどそこまで喜んで作らない酒だぞ。この集落に【白濁酒】は置いてないな。悪いが俺も【濁穀】は作った事は無い。今のメンバーで製糸する奴も来てないから【濁穀】自体も集落には無い。確か【濁穀】はエーツ氏族の分家筋から独立した氏族がやってなかったか? ジョー=エーツに聞いてみたらどうだ?」
流石、農業専門ドワーフ、作物関連は博識です。というよりドワーフって米作りするんだ。ジャガイモ食べてソーセージ食べてビール飲んでウィー!!じゃないんだ。
{ ―――― それは前世のイメージ:ドイツ人ですよ…… ―――― }
どこか遠くから脳内に声が聞こえた気がした。
「【濁穀】はコーシ氏族の管轄だ。エーツ氏族から分家したいくつかの氏族から「エーツ氏族を超えるぞ!!」と言ってコーシ氏族として独立した経緯だな」
「流石は山師氏族じゃの。未踏鉱脈を探したり謎穀物の使い道を探したり、ご苦労様じゃなことよ」
「パイク=ラック、褒めても何も出ねえぞ。【濁穀】は酒用というよりは糸や布用だ。繊維の毛羽立ち防止の糊付け用に使うやつだぞ」
ヤバい、【濁穀】食べてみたい。
……!? 待って、【白濁酒】がドブロク的な物だとしたら、もしかして米麹的な物が存在してる!? 麹が有るなら味噌・醤油も存在する可能性有り!? あっ、大豆の存在も確かめなきゃ……
「おいミーシャ、目が泳いでるぞ!!大丈夫か!?」
すみません、米の存在と味噌・醤油の可能性で意識が一瞬何処かに飛びました。俺の当面の目標は “ 親子丼を食べる “ に決定です。
「話は済んだか?ここから先はミーシャの将来について…にしたいんじゃがよいかのぅ?」
「パイク=ラック、申し訳ない。ミーシャと語らい始めると、つい創作意欲が刺激されてしまう故に……」
「ミーシャの保有スキルの確認をしたいところではあるんじゃが、家族でもない相手のスキルをホイホイ聞くわけにもいかんのでな。ミーシャが把握しているスキルの中で儂らに知られてもよいものだけでよいから教えてはくれんか?」
「秘密にしててもいいんですか? ボクが養子や庇護氏族になる時には全部教えることになるのでは?」
「その場合でも全部のスキルを教える必要は無いのじゃ。養親側が有用なスキル持ちの子女を好き勝手に養子にせぬ様に…という理由じゃ。制度の悪用防止の為じゃよ」
そして俺の進路を決める会議が始まった。
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