第15話

名も無き集落、便宜上『関所の集落(仮)』とでもしておこう。管理と防衛がメインなだけあって、おっさんドワーフしか住んでいなかった。ジョーさん曰く「全員が妻帯者で単身赴任だから安心して過ごせばいい」とのこと。ここに住んでいるのは異性に飢えた野郎どもではなく、鍛冶に飢えたドワーフ達だった。


空き家を借りると荷物を下ろす。長い間使われていなかったのか少し埃っぽい。掃除をしながら『汎用魔法』の『換気』を掛ける。家全体に『浄化』を掛けたら魔力が持たないかもしれない。今は最低限の範囲にだけ『浄化』を掛けて、寝る直前にフル使用することにした。『浄化』『清浄』『殺菌』のトリプルコンボは外せない。


そうこうしながら脳内の整理もする。『記録保管所アーカイブ』のドワーフ関連の再確認もしておかないと。文献資料と現実情報とをリンクさせないとだ。幸いなことに世間知らずの辺境出身ドワーフっ設定なので、今のところはそこまで怪しまれてはいなさそうだ。


日銭の稼げない場所なのは痛かったが、その分、野外採取で必要そうな物を備蓄できそうなのは嬉しいかな。砥石や石や岩塩を中心に次の集落で売れそうな物を中心に採取していく予定だ。


それよりだ、ドワーフ氏族のことを『記録保管所アーカイブ』検索したらビックリだった。ジョーさんの属するエーツ氏族は由緒出しい氏族だった。



「ミーシャ、今いいか?芋持ってきたぞ」


「はい。ありがとうございます。それよりジョーさんって、あの『カークェイ=エーツ』のエーツ氏族だったんですね!!」


『カークェイ=エーツ』はドワーフ史で一番有名な英雄だ。鉱山開放物語の中心人物で、この話を知らないドワーフはいないと言っても過言ではない。


「ああそうだ。って、今頃気付いたのかよ。尤も、エーツ氏族もだいぶ没落したがな」




『ネオ=ラグーン領』には海の向こう遥か彼方に鉱山島がある。操船及び海上輸送、水魔法、『飛行』の風魔法もしくは『浮遊』の空間魔法に滅法弱いドワーフでは、領内にある鉱山とは言え殆ど有効活用出来ていなかった。そこに目を付けたヒト族が「輸送に手を貸してやるから共同採掘をしないか?」と甘言を囁く。

だがしかし、ヒト族が鉱山を搾取しようとしていることに気付いた『カークェイ=エーツ』は「よっしゃー、儂に任せんかい」と、海の彼方に見える鉱山目掛け……海底トンネルを一気呵成に掘り進めヒト族から鉱山を守り抜く。一人の豪胆なドワーフの助けによって渡ることの出来た鉱山は『エイドパス鉱山』と名付けられ、カークェイ=エーツは後に鉱山王、改め『鉱帝カークェイ』と呼ばれることになる。



と言う伝承だ。


鉱山王、格好いいなぁ。俺は鉱山王になる!とか言ってみたい。

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