第10話
さて、そろそろこの白い空間から旅立つ時がきた様だ。心残りは部屋に置いてきた砥石類と明日届く予定だったパワーストーン原石詰め合わせセット。まぁ死んでしまったから仕方ない。
「AIさん、ありがとう。そろそろ旅立とうと思う」
「
AIさん、可愛い。
「無いといえば嘘になるけど、まぁ仕方ない事だから」
嘘も何も、心残りが無いわけがない。未練タラタラだよ。転生話がなくても成仏出来ないやつだよ。
「もし、一つだけ生前世界から持ち込める物があると言われたら、
へっ!? 最後に爆弾発言キター!! 悩む。悩む。考えろ、俺。
……、……… 、
「質問していいか?もし、俺が剣と魔法の世界から別の同様な世界に転生するとする。その世界の俺は錬金術師で、先程同様、何か一つを持っていけると提案された、と。俺は錬金術の道具を持ち込みたいと考えているが、この場合、道具箱に一定の道具を纏めた錬金セットは許可できるのか、その中からたった一つ…例えば試験管一本のみ許可されるのか、その答えを知りたい」
この質問は賭けだ。
「そうですね、最低限の道具箱は許可されるかと思われます。剣士が愛用の業物の剣を一本持ち込むのと錬金術師が試験管一本を持ち込むのでは、天が許可したギフトとして同等ではないでしょうから」
「なるほど、ありがとう。だったら俺は砥石と工具の入った『道具箱』を持っていきたい」
そう言いながら俺は自室に残してきた道具箱を思い浮かべる。
「なるほど、それでそんな質問をしてきたのですね」
AIさんは苦笑いしながら俺の道具箱を召喚する。中を改めると、砥石一式、耐水ペーパー、ダイヤモンド
「ちょっと待ってて…」
工具箱の中から俺は作業途中だった石を見つける。生前最後の仕事はルチルクォーツの手磨きだった。しかもハート型。石は磨き終わっていて後は市販のシルバーリボンで縁取りをして、ペンダントトップに加工してフリマアプリに画像をアップするだけだった。媚びたデザインは好きではないんだが、原石の形がハート型に適していたし、販売を考えたら一般ウケする形を選んだという。
長めに切られていたシルバーリボンをハート型のルチルクォーツに当て、上にきた余剰部分を纏めて捻って簡易的なバチ
「AIさんにこれを。これは俺が最後に手掛けていた作品。工具じゃないから多分持ち込めないと思う」
そう言いながら俺はAIさんに完成したペンダントを手渡す。
「これを私に……!?」
「ルチルクォーツ、別名エンゼルヘアー。水晶の中に入っている金色のルチルがさながら天使の髪の毛みたいに見えるからそんな呼び名が付いたんだとか。AIさんって天使みたいだし。これは本当、俺のワガママなんだけど、受け取ってくれたら嬉しい」
AIさんにペンダントを手渡すと俺の姿がドワーフっ
「ありがとう。ボク、頑張っ……生き… て …く」
お礼の言葉が言い終わらないまま、俺は白い空間から吐き出されていった。
「
一人残された空間で、AIは小さくそう呟いた。
―――――――――――
表記変更
バチカン → バチ
白い空間から出かける → 白い空間から旅立つ
誤字修正
(誤)ルチルががら
(正)ルチルがさながら
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