第17話 土地攻略完了!

「うぅ……ちょっとのぼせちゃったかも」

 ガイデンさんの忠告をしっかり聞いておくべきだったな……。

 外に出て、飛び石を一つ、二つとゆっくり跳ねるように超えながら

 ボクは少しだけ後悔していた。

 服の方は、洗って干してくれるそうで非常に助かることこの上ない。

 旅に備えてポーチの中には着替えも常備していたので、服には困らなかった。

 なにせ、クラフターは汚れ仕事だ。旅とは関係なしに着替えの一つくらいは持ち歩  かないとね。


 飛び石が終わり、大きな中央の道へと出る。

 酒場からさほど離れていなかったため、自然とその看板が目に入った。


 すると、腹の虫が『食べ損ねてるぞ』と鳴きだした。

 それと同時に、気絶前に見たフロウの姿を思い出す。


 意外と、家庭的な一面でもあるのかな……。


 子供に囲まれ、文句を言いながらも料理を作り、それが終わりもしない間に赤ちゃんが泣きだしてしまいおむつを取り替える。


 そんなフロウの姿を想像してニヤついていると―。


「おっ、元気になったみたいだな!」


 酒場から出てきた本人に出くわした。

 その手には先ほどまで付けていたであろうエプロンらしきものを抱えている。


「ふっ、フロウって料理とかするんですね?」

「おう!短剣使って戦う内に、刃物類の扱い方自体が上達してなぁ……。気づいたら料理担当になってたんだよなぁ。この間も、食材の調達も目的だったんだぜ?」


 別に男が料理することに違和感などはなかったが、フロウの暗殺者チックな見た目から、こんな一面を見せられると、口角が上がるのは否めない。


「お前の飯、取ってあるから食っとけよ!冷めちまってるとは思うが、味は保証するぜ!」

 フロウはボクにそういうと駆け出そうとする。

「どこか用事ですか?」

「いや、ちょっとガキどもが喧嘩してるみたいで仲裁にな!また後で!」


 この面倒見のよさ……あながちボクの妄想、間違ってないのかも?


 腹の虫が急かすので、酒場の扉を開け、中へと入るのだった。


 ☆


「さぁて、あともうちょっとだね!」

「キュッキュー!」


 ナインはボクの頭の上に乗りながら応援してくれているようだ。

 敷地の真ん中にあったボクが縮めたブロック状の土に紐を括り付け、ジャックに引いてもらうことで何とか引っ張り上げることが出来た。


 後は、ここに2層構造の構造物を入れればいいのだが……。


「コルク砂原まで遠いし、多分まだまだかかるよね……。」

「キュー。」


 素材となる砂が届かなければ、作業は出来ない。

 かといってそれを今ボクが手伝ったところで、大して貢献は出来ないだろう。


 役割分担をした時に、移動手段について確認したら「心配するな。」と言っていたから、何かしらの契約獣はいると思うんだけど……。


 もし雨が降ったら、やり直しになってしまう可能性があるから、なるべく時間はかけて欲しくないんだけど……。


 ボクが思案していると、地鳴りのような音が響き、地面が揺れる。

 何事かと思っていると畑の中の泥が徐々にせり上がっていく。


 ズブズブと音を立てて現れたのは【スナクジラ】だった。

 その巨体が、畑予定地一体の半分以上を埋め尽くした。

 口をあんぐりと開けると、中からキレイな砂が大量に吐き出されてくる。

 と、同時に二人の男も転がり出てきた。


「だぁから言っただろうが!潜って入ってくのなんか無茶だって!聞いたことねぇぞ【スナクジラ】と一緒に潜砂せんさするヤツなんて!」

「お前も『アルクをびっくりさせられていいかも』ってノリノリだったじゃねぇか!俺だけのせいみたいにすんな!」


 やいやいと言い合っていたのは、見知らぬ男とヒューズさんだった。

 今にも殴り合いになるんじゃないかといった雰囲気に思わず止めに入る。


「あ、あのぉ……。」

「「あぁ!?」」

 二人の威圧に、流石に驚きを隠せなかった。

 それに気づいた二人もすぐに『しまった』という顔になったが、その顔が直ぐに絶望に染まっていくのがわかる。

 ……ん?なんかボクに対しての反応じゃないな?


 振り返って見てみると、そこにはガイデンさんがギラギラに目を煌めかせていた。


「アルク君に今日はもう休んだ方がいいと伝えにきたんだが……どうも来て正解だったようだなぁ!」

「「うわぁぁぁぁ!!!」」


 二人の首根っこを捕まえ引き摺るようにして連れていってしまう。

 片足が悪いっていうのに凄い力だなぁ……。


「アルクぅ!吐き出した砂を使ってくれぇ!!スナクジラはしばらくしたら戻すからぁ!!」


 連れていかれながら叫ぶヒューズさんに手を振って伝わったことをアピールする。

 契約獣を持ってたのは彼自身だったのか。元々魔導士だったのかな……?

 ボクはあまり人の過去を気にしても若かないと思いなおすと、作業に入る。

 ……とは言っても、底部分にも作ったものを入れなきゃいけない都合上、スナクジラが戻されてからじゃなければ作業は出来ない。


 それまでの間、吐き出した砂を集めてみることにした。


 ☆


「よし!これだけあれば充分そうだ!」

【スナクジラ】はとうに元居た場所へ返され、ボクは夢中で集めた砂を眺める。

 きっとディアが見たら満足そうな顔を指摘されていたに違いない。


 ふと、ナインの事を見ると、やはり寝起きの時と同じく隅っこの一点をじっと見ている。


 ……やっぱり気になる!

 深い場所を探るにも、ボクのブレイクでは直ぐに周りの泥が流入し調べることが出来ないので、ハーツを呼び出して、一点を掘り進めるようにお願いしてみる。

 ディアと作業した要領で、堀ったそばからボクが周りを固める。


 暫くハーツと一緒に掘り進めると―。

 ガツっと何かに当たるような音が響く。


「ハーツ!ストップ!それ、咥えてあがってこれる?」


 すると、掘り出したものを咥えたまま高く飛び上がり、ボクの後ろに着地した。

 振り返り、ハーツが降ろしたその箱のようなものを開けてみる。

 カギはサビと腐食が進んでいるのか、少しの力で簡単に折れてしまった。


「こ、これは―。」


 ☆


 それから穴を埋め直し、砂で枠組みを作って、新しい土を入れて……気付けは1日があっという間に過ぎていた。


 畑は見事に完成し、皆で作物の種を植える。

 1つ1つ、丁寧に……慣れていない作業で、弱音を吐く者もいたがこれからの生活を思うと頑張れると息巻いていた。


 そうして、全てが終わり、晴ればれとした表情でヒューズさんが近寄ってくる。


「アルク、ありがとう。食料問題が直ぐに解決するわけじゃないが、希望が持てたよ。作物が育つまでは子供達には苦労をかけてしまうかもしれないが……そこは、なんとかするさ。」

 その目には初めて会った時の鬼気迫る様子はない。

「ゲッター……やったら駄目ですよ?」

 ボクの忠告に、ばつの悪そうな顔をしながら鼻の下をこする

「勿論だ。」

「それなら……最後にボクからプレゼントがあります。」


 ボクはポーチに小さくして隠していた1つの箱を取り出すと元のサイズへと戻した。


「ん?なんだこれ。」

「開けてみてください。」


 中から出てきたのは、山のような金貨と宝石の類だった。


「なっ!宝の山じゃないか!こんなの受け取れない!」

 突き返そうとするヒューズさんにボクはにこやかに答える。

「これはここの畑から出たものですから。元の持ち主は分かりませんが……これがこの畑のになりますね!」


 その言葉で、ボクに受け取る気が無い事を察したのか、ヒューズさんの表情が崩れた。


「……すまん。この町のため、ありがたく受け取るよ。だけど!」

 彼は、自分の腰に付けていた小さな麻袋を外したかと思うと、そこにありったけの金貨を詰め、ボクに投げ渡す。

「今回の報酬分くらいは、受け取ってくれよ。」

 受け取ったそれを、ボクも遠慮せずに貰うこととする。

「わかりました。……それじゃ、ボクたちのやることもこれで終わりかな?」

 ボクの言葉にフロウが反応し、歩み寄ってくる。

「あぁ、そうなるな……。アルク。助かった。本当にありがとう。今日はもう遅いし、俺の部下からブラストに動きがあったって連絡もない。……飯と風呂くらいは済ませていってもいいんじゃないか?」

 フロウの言葉にヒューズさんが賛同する。

 師匠を早く探しに行きたい気持ちと、一晩ゆっくり休む事を天秤にかけると、直ぐに休む方に天秤が傾いたことに思ったより疲れているんだなと感じて、お言葉に甘えることとした。


 無法者の町【グロッシュラー】。

 最初こそどうなることかと思ったけど、いい場所だった。彼らをただの無法者や荒くれ者と切って捨てるのは簡単だけど……実際に一緒に過ごしてみて、人を見かけや住む場所で判断しちゃいけないんだって、楽しく夕飯を囲みながら、そう思った。

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