第14話 戦火舞うグロッシュラー!

「それじゃ、そろそろ行こうか!」


 残りの一室に大戻石を配置し、その欠片を成型してアラートバングルにはめ込んでいつでもここに帰ってこれるようにしたボクらは【グロッシュラー】へ向かうこととした。


【カルセドニー】よりは多少近いとは言え、そちらも1日は歩き詰めになる。

 先に戻っているであろうフロウをこれ以上待たせるわけにもいかない。


 師匠の件もあるし、長くココを空けることになりそうだから少し不安だったが、益魔達は餌がなくなると休眠状態に入り、よほど放置しない限り死ぬことはない。しかし、念のためエサとなる水と花の種は大量に置いておく。


「みんな、一気に食べちゃダメだからね?」


 ボクが入口の階段付近から、大声でそう伝える。

 すると皆、部屋から出てきて返事をしてくれる。

 ちゃんと伝わってるか不安だが、あまり考えても仕方ないだろう。


「キュー!」


 ボクの真似をしてナインが飛びながら言い聞かせるような素振りをする。

 お前だけはそれを他人に言えないだろ……とは言わなかった。

 先輩風を吹かせて、翼をはためかせるナインの顔を立てておかないとね。


「アルク。」


 ディアが暗い顔で、ボクに声をかけてくる。


「どうしたの?」

「いえ、その、どうということはないのですが……。次の町、何が起こるかは予想がつきません。充分に、注意してくださいね。」


 ディアの忠告はもっともだ。犯罪者の町なんて、行かなくて済むならそれが一番だったのに。


 とはいえ、約束を反故にするつもりもないし、フロウの真剣な様子に嘘を感じなかったので行かない選択肢はないのだが。


「わかった。ディアの勘はよく当たるしね。気を付けるよ。」


 そうして、ボクたちは【グロッシュラー】に向かうのだった。


 ☆


 薄暗い部屋、蝋燭の明かりだけがゆらゆらと部屋を照らす。

 その部屋の奥、床にドカッと豪快に座り込む男が居た。


 その男は部下が酌をした酒を、喉を鳴らして一息に飲み干すと、おもむろに口を開いた。


「ふぅ……状況は?」

「今は、よくて五分五分。ですが、ジリジリと削られています。……時間をかけるほど、我々が不利になると考えます。」

「やはりか。」


 その報告を耳にして、男は顔に悔しさを滲ませた。


「フロウはなにをしているんだ……。アルクという少年を引き込むと抜かしていたが……。」


 男は天を仰ぎ見る。怪我さえなければ、自分さえ前に出られれば……。

 どうしても動かない左脚をさすりながら、彼は呟く。


「急げよ……。俺たちは長くはもたん。」


 ☆


 ボクたちが出発して、1日半が経過した。


 そろそろ見えてくる頃合いだろうと、崖際まで寄っていきその下を確認すると―。


「あっ!ディア、あっちに見えたよ!……え?」


 ―【グロッシュラー】は戦火に包まれていた。


 ボクとディアはジャックを呼び出し、その背にのると突っ切るようにして町の中に駆け込んでいく。


 何人かの人がボクらへ切りかかろうとするも、ジャックの爪と牙が武器を弾き、戦意を削ぎながら駆け抜ける。


 そうして、町の中に辿り着き酒場へ向かうと、その前で戦うフロウの姿が目に入った。


「フロウ!これは一体!?」

「話は後だ!!コイツらを片づける!手伝ってくれ!」


 フロウは刃が3つある特殊な短剣で、相手の武器を抑え込むと飛び上がって、こめかみに向かって蹴りを食らわす。

 相手はたまらず昏倒するが、周りにはまだ3人ほどの武装した男たちがいた。


「いくよジャック!お手!」


 ボクの声に従い、ジャックはその手に魔種を集中させる。輝きを放ったその爪が男の一人へと迫る。

 たまらず剣で防ごうとするも、その剣はいとも簡単にへし折れてしまいジャックの肉球の餌食となった。


 ボクの注意がジャックに向いている隙をついて男の一人がナイフと突き立てようとする。


「ひひゃひゃ!」


 ―しかし、そのナイフがボクに届くことはなかった。

 そちらを見やると、ディアがナイフを短剣で抑え込み、空いたもう片方の拳に風の魔種を込めるとみぞおちにぶち当てる。

 その衝撃に、恐ろしい距離を吹き飛ばされる男。

 ……少し、可哀想かも。


「ひっ、ば、化け物!」


 残った一人は、戦意を喪失したのか、逃げ出そうとしている。

 しかし、その行く手をフロウが遮った。


「誰の差し金か、洗いざらいはいてもらおうじゃねぇか。」


 その顔は分類するなら笑顔であったが、目は震えがするほどに冷たく冷え切っていた。


 ☆


 縄でグルグルに縛り付けると、そいつを引きずりながら酒場の中に入り、柱に括り付けてしまった。

 フロウが質問をしても、全て「知らない!分からない!」の一点張りで話にならなかった為、怒ったフロウが手近にあったロープで縛り上げてしまったのだ。

 そんな男には目もくれず、彼は置かれたボトルの口をいくつかカチカチと弄ると、地下へと続く階段が姿を現した。

 ボクらはフロウの先導で、その階段を下りていく。


「これ、どこまで続いてるの?」

「そんなに深くはない、もうすぐさ。」


 そのまま、フロウに続いていくと、やがて頑丈な扉が姿を現した。

 フロウは思い切り力を込めて、その扉を引くと。

 重厚な音を響かせて鋼鉄の扉がゆっくりと開いた。


「遅かったじゃねぇか。」


 扉を開けきりもしないうちに、中からボクらに語り掛ける声が聞こえる。


「すいません、親方。なんとか助っ人を連れてまいりました。」

「おう、もっとこっちに寄って来い。俺は足が悪くてな。」


 薄暗い部屋の中、親方と呼ばれたその男にボクたちは近づく。

 徐々にはっきりとしたその顔は歴戦の勇士といった風貌で貫禄がある。

 彼の目とボクの目が交錯する。まるでボクたちを値踏みするような目線に、何処か居心地の悪さを感じた。信用に値するか、どうか確かめているような目だ。

 自分の目で見て確かめる。

 そう訴えているような気がした。


「……合格だな。間者には見えねぇし、こいつの目はどこまでも澄み切ってる。すまねぇな。俺の顔、怖かったろ?俺はガイデンだ。よろしく頼む。」


 彼は、そういうと豪快な笑顔を見せた。

 それに安堵したボクもつられて笑顔になる。


「さて……、外の状況を見てきたんならわかるだろうが、今、俺たちは戦乱の最中だ。」

「親方!いったいどうしてこんなことに!」

「慌てんなフロウ。順序だてて説明する。」


 彼は、何も知らないボクたちでもわかりやすいようにゆっくりと説明してくれる。


 穏健派と過激派、ふたつの派閥のトップでの話し合いが何度も行われていたらしい。


 そして、ついこの間の最後の会合で意見が完全に決裂したようだった。


 ☆


「ブラストが消えてから、もう3年だぞ!国に反旗を翻す時が来たのだ!」


 過激派の若きトップが興奮した様子で机を叩く。

 それを聞いたガイデンは重い口を開いた。


「落ち着け、ヒューズ。俺たちは確かに、法に背く行為をしてきた。だが、それは、法で裁けない悪を裁くためだ。ブラストがどうこうという話ではない。国に反旗を翻せば、確実に散っていく命がある。……国の統率者を失い、それによって不安になる民も出ることだろう。」

「俺たちが食っていくためには、今の国の体制ではダメなんだよ!だから俺たちはゲッターなんてあくどい真似に手を染めてる!」


 無法者の町に住む民は、働くことが出来なくなったもの。

 無能と蔑まれ、居場所を失った者たちが集まっていた。

 法の下で食べていけないのであれば、それ以外の方法で食べていくしかない。

 穏健派のガイデンのやり方では、最早【グロッシュラー】に住む皆を養いきることは不可能に近かった。開墾し、畑を作り、動けるものに任せてみたが、土壌が悪いのかうまく育たず、最早、手立てはないと思われた。


 ヒューズは立ち上がり、部屋の扉へと向かう。


「相容れないなら……国の前にアンタらから潰すしかないだろう。」

「待て!!」


 その言葉は彼の耳に届くことなく扉が二人の間を遮ってしまった。


 ☆


「そのすぐあとだ。【グロッシュラー】の中で、俺たちを快く思っていない連中が賛同し、この町は真っ二つに割れた。頼む、アルク君。どうか、俺たちを助けるためにこの戦いに力を貸してくれないか?」


 ボクはその話を聞いて、少し考えた後、口を開く。


「イヤです。」

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