第13話 ダンジョン改築!そしてフロウは―。
ボクらはフロウと別れた後、【カルセドニー】の入口へと戻っていく。
フロウはというと、まだやることがあると言い残して、姿を消してしまった。
ボクらが商業区のあたりにつくと、昼時を過ぎたからか、その賑わいも先ほどより落ち着いて見えた。
ディアが先を歩くと、大きな鳥の契約獣【フライバード】を従えたおじさんに声をかける。
先ほどのフロウの話に出ていた、人を運ぶ事を生業としている方のようだった。
ボクの頭に、故郷のスナクジラのおじさんが浮かんで、少し頬が緩む。
急ぐ理由もあるし、利用しない手はないだろう。
おじさんに場所を伝え、ボクらはドーン平原のダンジョンへと戻っていく。
2時間ほどでボクらはダンジョンへとたどり着けた。
「快適だったね!揺れも少ないし、空の旅は中々気持ちよかったな!」
「キュー!」
ナインもボクのフードの中ですっかり旅を楽しんでいたようだ。
「あの方は、この道でもう20年ほどは食べているベテラン中のベテランですからね。一度、あの方の【フライバード】を利用したら他はもう使う気にはなれませんよ?」
一体、他がどのような運搬をするのか気になってしまうボクだったが、ディアはそんなボクの疑問に答える余地も与えずに、ダンジョンの中へと降りていった。
☆
ボクたちがダンジョンに戻って、数時間後。
夜闇が広がる中、頼んでいた荷物が届いた。
「ナーサリーライム様から、ミルクスライムの幼体が5匹とフラワーヘッジホッグの幼体が5匹。それとギルドから大戻石ですね。お確かめください。」
荷物を運びこみながら、運搬屋のお兄さんが内訳を教えてくれる。
ボクは料金を支払おうとすると、ナーサリーライムから既に受け取っているといって帰って行ってしまった。
どうやら、お爺さんはしっかり約束を守ってくれたようだ。
許しはしたけど、前髪の恨みは忘れない。
ボクがそう決意を新たにしていると、ディアが口を開いた。
「さて、では彼らの居場所を作ってあげましょうか。」
「そうだね!まずは狭い檻から出してあげないと。」
地面に置かれた檻を開けてあげて中を覗き込むと、すやすやと気持ちよさそうにかたまって眠るミルクスライムとフラワーヘッジホッグが居た。
「長旅で疲れちゃってるみたいだね。……先にダンジョンの改築をしておこうかな。」
ボクはハーツを呼び出すと、細かな洞穴をいくつか作ってほしい旨を伝える。
すると、すぐさま、3つほど小部屋用の穴を掘ってくれた。
ジャックよりもハーツの方が仕事が早い。
その分ジャックは体力があるから、大掛かりな仕事はそっちに任せてるんだけど。
ハーツに続くようにして、ボクも魔法をかける。
掘り出した余りの土で扉も作ってあげ、取り付けた。益魔は自分の部屋と認識した場所から遠くはなれる事はないから、あまり必要はないかもしれないが、どこに誰が居るかは分かりやすくしておきたい。ボクはペン型の小さなスコップを使い、ドアに文字を彫り込んでいく。
すると、いつの間に起きたのか、興味深そうにボクの周りにミルクスライム達がやってきていた。
「ふふっ、早速懐かれているようですね?」
「そうなのかな?」
「生後間もない益魔達は、あまり人に寄り付きませんから。餌を与えてあげるうちに、自然と懐くのが普通です。」
ボクが下を向くと、スライムは目がついていないので分からないが、どうもボクを見上げてまじまじと見つめている気がする。や、やりづらい!
フラワーヘッジホッグもその茎トゲを擦り付けてくる。通常のハリネズミのトゲが花の茎に挿げ変わっている彼らだが、親愛の証として背中を擦り付けることがあるらしい。
トゲとは言っても、所詮は茎なので痛くはないが、5匹まとめてやられると流石に気になった。
「ほら!出来たから中には言ってごらん!ディア!水を持ってきてもらってもいい?」
「作業中に用意しておきました。フラワーヘッジホッグ用に花の種も用意してあります。」
「流石だね!それじゃ、ミルクスライムたちに上げておいてもらっていいかな?ボクはもう一部屋準備するから!」
ディアは了承すると、ミルクスライム達を引き連れ中へと入っていった。
水につられたのかディアの周りを跳ね回って嬉しそうにしていた。
「ミュー。」
フラワーヘッジホッグが鳴きながら見上げてくる。
つぶらな瞳と、特徴的なハート型の鼻が何とも可愛らしい。
「すぐに作るから、待っててね!」
アルクは、しゃがみ込んで彼らにそう伝えると作業に戻るのだった。
☆
時は遡り―。
俺は、ギルド【ロックミヌレ】へと舞い戻っていた。
俺の本来の目的はアルク達ではなく、ギルドの『オトモダチ』と話す事―。
しかし、ゲッター達の足取りを追うため、木の上に登ってたら、たまたま見かけただけだったのに、あんなに血相かえて詰められるとは思わなかったな。
ギルドに併設された酒場で、適当なカウンター席に腰掛け、注文する。
「マスター、オススメはあるかい?」
マスターは俺の言葉に、顔色一つ変えずに質問に質問で応答する。
「好みは?」
「味わい深いものがいい。ツマミは揚げてくれ。」
マスターそれを聞いて、俺のためにカクテルを用意してくれる。
「酒ならあるが、揚げ物は置いてない。食いたきゃこの店に行け。」
言いながら、マスターは俺にメモを渡した。
そこには時間と後で落ち合う場所が書かれていた。
「今日はこの一杯でやめにしとくよ。次の仕事に響くからな。」
マスターがそれに答えることはなかった。
☆
暗い路地裏。
もちろん揚げ物屋などそこにはなく、臭いゴミ箱と汚い猫が大あくびをしているくらいだ。
俺が、顔を引き攣らせていると、マスターがやってくる。
「もう少し場所選んでくれよ…。」
「仕方ないだろう?昼間に来るお前も悪い。」
そう苦言を呈すると、マスターはタバコに火を付ける。
「それで?
俺は、急かすように口を開く。
何度も交わしたやり取りだが、この時ばかりは気も急いてしまう。
なにせ、この
「…ブラストの失踪についてだ。」
「なにか分かったのか!?」
「いや、なにも。だが、国の方で彼を指名手配する動きがある。」
「なに!?」
俺は、ブラストには恩がある。
俺の知っている彼は、指名手配されるような男ではない。自らも襲われた事があるとは言え、性質の悪いゲッターを懲らしめて、数々の武勇を立ててきた事は有名である。
俺もまた、彼に救われた一人だ。
出来ることがあるなら、俺も力になりたい。
「いつからだ?」
「さぁな。英雄を指名手配しようってんだ、相当モメてるらしいぜ。」
マスターは吸い終えたタバコを足で踏みしめると、背中を見せた。
「取り敢えず伝えたぜ。俺は仕事に戻らねぇと。」
どうすれば良いか―。
「…取り敢えず戻って、温泉でも入りながら考えよう。」
俺は頭の片隅に情報をしまい込み、【グロッシュラー】へと向かうのだった。
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