第2章 土の国「ダーティア」編
第8話 旅立ちの日!初めてのマイダンジョン!
山の先から太陽が顔を覗かせようとしているのが
白んでいく空の様子から伺える。
ヨアケドリが鳴きだすよりも早く、アルクは村の入口に立っていた。
「もう行かれるのですな。」
「たまには帰ってくるんだよ!」
見送りには、クリスチャンと、母の姿。
「うん。朝早くにありがとう、2人とも!それじゃ、行ってきます!」
ボクが歩き出そうとすると、クリスチャンが引き止める、その手には見覚えのある腕輪があった。
「お待ち下さい。アルク様。これを。」
「これって…【アラートバングル】ですよね!?」
アラートバングルは、ダンジョンと対応する戻石を嵌め込むと、異常があった際に音と振動で知らせてくれるクラフター必携のアイテムである。
「旅立ちの餞別です。これを譲ることはきっと、ブラスト様も許してくださるでしょう。元々入っていた戻石は抜いてあります。戻石をダンジョンに備え付けたらお使いください。」
クリスチャンからの思ってもみない贈り物に、思わず涙が込み上げてきたが、ぐっと堪えボクは前を向いた。
「では、いきましょうか。」
ディアに促されて、一歩を踏み出す。
「キュキュ!」
そこには元気に飛び回るナインの姿もあった。
―師匠がいなくなってから3年の月日が流れた。
ボクは師匠の残したダンジョンの管理を手伝いながら、魔物の生態について多くを学んだ。
その中でも特に【益魔】に関する知識について勉強した。
【益魔】が居なければ、クラフターの仕事は成り立たないため、ボクは必死に頭に叩き込んだ。
そうして、ついにボク自身のダンジョンを作る日が訪れた。
それは同時に、行商の旅と師匠を探す旅の始まりでもあった。
ディアは、クリスチャンの勧めで、ボクの行商の補助の為、同行することとなった。
暫くは給料出してあげられないかも…なんてボクが弱気なことを口走ると―。
「私は旅をすること自体に目的がありますので。」
と一言。
あまり人間らしい欲のようなものを感じないせいで、ボクはほんのちょっとだけディアが苦手だった。
ナインは騒ぎになる可能性を考えて、置いていこうとしたのだったが…。
腕にしがみついて離れなくなったので、渋々ついてくることを許したのだった。
最初のダンジョンを作る場所は何処にするかと考えながら歩いていると、ディアがボクの顔を覗き込んだ。
「もしかすると、良い場所があるかもしれません。」
☆
コルク砂原と反対側。
アルクたちが住む場所と、ダーティアの都との間を結ぶ道に広がる平原。
【キャノンエレファント】が大きな大砲のような音を響かせ闊歩していることから通称、ドーン平原と呼ばれていた。
2人は、そこにある小高い丘の途中でケーキを切り分けたかのようにむき出しになっている壁面を前に、立ち尽くしていた。
「この辺りなどはいかがでしょうか。今後のことも考えるのであれば、都への道すがらにダンジョンを構えるのが得策かと思います。」
その提案にボクは腕組みして、唸り声を上げる。
「うーん…、こんなところに作って、ゲッターの被害に遭わないかなぁ?」
「それについては私にお任せください。」
ディアは涼しげに、だが力強く答える。
「私は風の魔種を持っています。幻惑、撹乱等は私の得意分野ですので。ここは、風の魔種もある程度多く、私の魔法も100%の力を発揮できるでしょう。」
ボクはその言葉を聞いて、悩むことをやめた。
初めてのダンジョンだからとあまり悩んでも仕方がないしね。
「わかった!ディアがそういうなら任せるね!さて…。」
ボクはこの3年間で一通りの基礎魔法を練習してきた。だけどまだ、1からダンジョンを作るまでには至っていない。しかし、それはボクだけの力で作るなら、だ。ボクには頼れるパートナーがいる。
「来てくれ!ジャック!」
呼びかけに応じて、トパーズ色の毛を輝かせたサンドウルフが現れる。
その体躯は3年前とは比べ物にならないほど大きく成長しており、母のハーツと比べても遜色ないほどに大きくなっていた。
「ここにダンジョンを作りたいから、穴を掘ってくれ!」
ジャックは返事の代わりなのかペロッとボクの顔を舐めると、すぐさま壁に向かう。
短く雄叫びを上げると、その爪が黄金色に光り始めた。
すると彼はまるでゼリーでも扱うかのように、やすやすと壁を掘り進む。
☆
―暫くすると、穴の中からジャックがひょっこりと顔を出した。
「終わったみたいだね!ありがとジャック!」
ボクは、ジャックの好物のジャーキーをポーチから取り出すとジャックの口めがけて放り投げる。
カパッと開けた口に、見事に放り込まれ。
美味しかったのか、上下に揺れて喜んだ。
それを見届け、ボクは腕まくりをするとジャックの掘った穴の前に立つ。一気に掘ったせいか砂が舞い、思わずくしゃみをしてしまいそうになるがぐっと堪え、気合を入れる。
「さぁて、クラフターの腕の見せ所だね!」
ボクは少しだけ中に入り壁に両手を当てると、一気に内部にフォローをかける。
すると、スロープ状にゴツゴツしていた床面は階段となり、凹凸のあった壁面は、それなりに整った状態へと変わっていった。
「…ふぅ、後は細かい部分で崩れたりするような場所がなければ終わりかな?」
「流石です、アルク様。…まだブラスト様には及びませんが。」
と、そこまで口にしてディアはハッと口元に手を当てる。厳しいなぁ、と思うけどそれは揺るがない事実だ。
「あはは、ありがと!…そうだね。師匠のダンジョンは、もっと広かったし、整ってた。ボクもランク4が使えれば良かったんだけど。」
今ボクが使える魔法は、ランク1〜ランク3まで。
3年間の修行で、覚えたのは、たった1つだけだった。
『焦る必要はありません。今までが早すぎたのです』
クリスチャンは、そう言ってボクを励ましてくれていたが、【師匠を探す】という大目標があるボクにとっては歯がゆいことこの上なかった。
顔に悔しさを滲ませているのを感じ取ったのか、フードの中から出てきたナインが、慰めるかのように肩に乗る。
「キュ!キュッキュキュー!」
「ありがと、ナイン。」
するとヤキモチを焼いたのか、ジャックも大きな身体を擦り付ける。
「あはは、ジャックもありがとね。」
バツが悪くなっていたディアも、アルクたちの様子につられ微笑むのであった。
☆
ーダンジョン内部 B1Fー
ダンジョン内部に、降り立つ一行。
とはいえ、今はまだジャックが掘り進んだものを整えただけであり、広さ20m程度の一部屋があるのみ。
ジャックが掘り進めた土をバケツで運び入れ、フォローで形を整え、簡単なテーブルと椅子を作る。
一先ず落ち着ける場所を用意出来たことに安堵し、ディアもアルクも椅子に腰掛けた。
「とりあえず、一息つけたね。」
「えぇ、では今後の予定ですが…。」
テーブルに地図を広げて、ディアがダーティアの真ん中あたりの大きな街を指さした。
「情報収集と益魔の仕入れを考えると、やはりダーティアの都【カルセドニー】に向かうのが無難でしょう。」
「途中の分かれ道の先にある【グロッシュラー】は?距離的に近そうだけど…。」
地図の途中にかかれた、少し小さめの町を指さし、ボクは尋ねた。
だが、ディアはすぐに首を横に振り、答えた。
「あそこは、無法者が集まると言われています。裏の情報屋がいるとも聞いたことがありますが、真偽の程が定かでない以上、あまり近づくべきではないかと。」
無法者と聞いて、筋骨隆々の大男が大刀を片手に追いかけてくる姿を想像してしまったボクは、顔の血の気が引いていくのを感じる。
「…うん、やっぱり【カルセドニー】に行こうか。」
無難が一番。安全第一。
目的地が決まった一行は、少し休憩した後、カルセドニーに向けて歩を進めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます