第2話 アルク、魔法を覚える

 次の日の朝、ボクは魔法を覚えられるとあって、ワクワクが抑えられず、目覚めてすぐに兄ちゃんの屋敷に向かう。門の脇に供えられたスイッチを押すと、使用人のオジさんが対応してくれる。

 どうやら兄ちゃんはまだ寝ているらしく、朝食を食べたか聞かれ、まだだと答えると応接室に通された。


 ボクが椅子に腰掛けると、すぐにいい匂いが部屋中に充満する。

 扉から姿を現した、老紳士はその手にトレイを持っており、そこには幾つかの料理が並んでいる。


「ミルクスライムのチーズ卵焼きと、蜜がけパンケーキです。スープはサンディアで好んで飲まれるオンゴーディを御用意致しました。」


 次々と運ばれる豪勢な料理の数々に、思わず目眩がする。兄ちゃんは毎朝、こんなに豪勢なもの食べてるのか…!?

 めっちゃ稼いでるってやっぱり嘘じゃなかったのか…なんでこんな田舎に住んでるんだろう…。


 そんな事を不思議に思ったが、冷めてしまっては勿体ないので早速頂くことにした。


「いただきます!」


 スプーンで卵焼きを割ると、湯気と一緒にほのかに甘い香りが立ち昇る。肺いっぱいに匂いを取り込み楽しむと、スプーンの上のそれを口に含む。

 その瞬間、とろっとしたチーズが中から溢れ出し、その塩味が卵の甘みと絡み合い、口の中を幸せが包み込む。

 思わずパクパクと食べていると、パンケーキの方も気になってきてしまう。

 パンケーキの横に置かれたナイフを手に取ると、スーッと刃を入れていく。

 パンケーキの柔らかさもそうだが、ナイフの切れ味も抜群にいい。ウチで同じことをすれば、きっとギチギチに潰れてしまうだろう。

 切り分けたそれを口元に運ぶと、一気に頬張る。

 蜜の自然な甘みが鼻に抜けていく。卵の甘さとはまた違う華やかな甘さに、ボクの心は幸せで満たされていった。

 喉が渇いてきたボクは、スープへと手を伸ばす。

 鼻先へ近づけると、香りは酸味を感じさせる以外は特段変わった様子のない、普通のスープのようだった。

 一口、口をつけると、酸味を超えて痺れが口を襲う。

 しかし、その後で旨味が口いっぱいに広がり、先程まで、甘さで満たされていた口は嘘のようにさっぱりとしていた。


 お、美味しい!!羨ましいよ!兄ちゃん!!


 遠慮もせずに、パクパクと食べ進めていると、起き抜けの兄ちゃんが扉からやってきた。

 なんだか、ボクを見る目が随分とニヤついている気がしたが、料理が美味しいので気付かないふりをした。


 ☆


 兄ちゃんも準備を終え、ボクたちは庭に出ていた。


「魔法には覚えやすいものから難しいものまでいくつかのクラスがある。別に優劣があるわけじゃないが、最初は「フォロー」から覚えるのが良いだろう。」


 兄ちゃんはそういうと、袋からいくつかの石を取り出した。


「フォローってのは変化を発生させる魔法だ、土を集めて固めたり、こうやって…」


 兄ちゃんの手の中で石が光ると

 とても細かな粒になってしまった。


「す、凄い…!」


「フッ…手にとって良く見てみな」


 兄ちゃんの手から粒を手にとって良く見てみると

 それは、綺麗なサイコロ状になっていた


「えっ!?もしかして、これ全部四角くなってるの!?」


「当たりだ。用途は多岐にわたるが、ダンジョンの修繕、作成に主に使用する。最初は大きすぎても、小さすぎてもやりづらいだろうから、この小石を出来るだけ四角に近づけてみろ」


 そう言って、兄ちゃんはボクに石を手渡した。

 魔種を、使うって…どうやるんだろうか。

 試しにアルクは念じてみる。

『変われ…変われ…。』

 頭の中で念じてみると、ボクの頭の奥の辺りになんとなく、何かが蠢くような感覚を覚えた。

 それを、首、手と順序よく動かすように意識すると…、あれ?


「で、出来ました!」


 ボクの手の上のものは先程までの石とは明らかに様子が違っていた。


「出来ただぁ!?見せてみろ!」


 師匠はボクからそれをひったくると目を疑っているようだった。

 正直に言って、凄く歪な形だし、大きくなっちゃったし、兄ちゃんに怒られちゃうかな…。


「なんか…すごいおっきくなっちゃいました」


 素直にそれだけ伝えると、師匠はニヤッと笑ってボクの頭をワシャワシャと撫で回す。


「わっ!なんですか!師匠!」


「質量を変化させるのはフォローの応用技だ。最初っからコレが出来るとはな…流石だよ。」


 師匠は更にボクの頭を強く撫で回すと、何処か遠くを見つめていた。

 師匠は、前からこういう風な目をすることがある。


 過去に思いを馳せているような、そんな師匠をみてて、何処か寂しさを感じているように見えたのは、きっと気の所為じゃなかった。




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