第4話行商と癒し

リス獣人、リーデラは呼び出されていた。


「最近少し休みすぎでは無いか?体調でもわるいのか?」


組合のお偉いさんがリーデラの売上の低下を見て建前は心配して呼び出しをかけたのだ。

しかし本音はわかっている。

ここ最近は組合を無視してここより行商がラクな他国に所属を移る者、そもそも行商という手段を捨て、起業して店を構えてしまう者が増えるなど、組合自体から脱退するものが年々増えてしまい、運営をする為の資金が足らず、おそらく今回の売上低下から、私も新たな業態での活動をしようとしてる、と疑ったのだろう。


「いえ……そんな、別に健康体ですよ……」

「では何故最近売り上げのない日が頻発してるのかね?」

「それは……」


行商がストレスで寒天食べたりプール行ったり、はたまたウェトンと予定が合わなくて1日ゴロゴロする日を取るために休んでました、なんて言ったら激怒させてしまう。


「……いえ、ここの所の暑さが祟って寝込む日がありました。」


つい嘘をついてしまったが、今はこう言っておくのが最善だっただろう。





「う"ーん…………」


何とかその後解放されたものの、リーデラはいつもの酒場で頭を抱えていた。

このまま癒し探しを定期的にすれば、休みの頻度は変わらないからそのうち遊んでいる事がバレる。

だからといって前のように仕事に打ち込めばストレスフルな生活に逆戻りだ。


「あ!リーデラ、来てたの?いつものカウンターに座ってないから気づかなかった〜」


ウェトンはこっちに気づくと業務中にも関わらず、向かってきた。そして、注文を取るような姿勢を取りつつ、こちらに話しかける。うまくサボるなこの子。とリーデラは少し感心した。


「ちょっと休みすぎちゃったみたいで、癒し探し出来ないかも……売り上げ下がっちゃって、今日お偉いさんが呼び出しかけてきたから……」

「え!行商って休んだりも本人の自由じゃないの?」

「それがそうでも無くて……組合だからやっぱり資金は集めなきゃ運営が成り立たないっぽいし、なにより遊んでたから売り上げ落ちました、ってなったら組合の印象もお客さんの印象も悪くなってどっちの対応も悪くなりそうなのよね……」

「あー、それもそっかぁ……」

「ウェトンはどう思う……?」


ウェトンになにもオーダーを取らせずにもどらせるわけには行かないので、指さしで飲み物のおかわりを注文しつつ、意見を聞く。


「うーん、こうやって私雑談しながらも仕事は出来てるわけだし、なんというか、遊びながら仕事したらいいんじゃない?」

「は!?すごく投げやりでめちゃくちゃなこと言うわね……?」

「あはは、私はそうやって生きてきたからそれくらいしか言えることないや、ごめんね……あとこれ以上さぼると流石にバレる……注文ありがと、またね!」


ウェトンは手をヒラヒラと振ると、厨房の方へ向かっていった。

去り際にほんとに頓珍漢なこと言ったな彼女……と思いつつ、その意味を少し考える。


行商はウェトンのように集団では働かず、基本的に一対一での仕事だから業務中隙を見せるのはアウトだ。ましてやサボりなんてできるわけが無い。


「……まてよ」


そういえば、あのプールを知ったのは行商で訪れたからだ。

むしろ、行商で訪れてなければ知ることは無かった。現に行った時、あの施設はガラガラで、

ほぼ貸切状態だったし。

それならば。売れずに、または誰も来なくて困っている「癒し」の要素を持つ商品や施設を私達が利用することで宣伝。または懸念要素があるならお客さんと相談して改良してから宣伝。行商で売れるものなら販売。そうすれば私は癒しを受ける子ができ、なおかつ商品も売ることが出来る。

ただ、セールスのように押しかけてしまうと、手間もかかるし厚かましいので、宣伝して欲しい人が出るまでは待つスタンスで普段は普通の行商をする。

万が一全く申し出る人がいなかった場合、以前の生活に戻るリスクはあるものの、

それならばいけるかもしれない。


「そうと決まったら準備しなきゃ……!」

立ち上がり、会計を済ませて足早に店を出る。

忘れないうちに、アイデアが埋もれないうちに。

そうしてリーデラの姿は夕暮れの市場へと消えていった。


後日。


「これ?いいよ、目立つとこに飾っておくわね」

リーデラはお得意様や仲のいい施設に貼り紙をしてもらっていた。


売れない「癒しグッツ」宣伝します。

ご連絡はウェトンまで。


そんな宣伝文と共に貼られたウェトンが働く酒場の住所。無論このことは酒場の方にも快諾してもらった。長年の付き合いとはいえ、協力してくれる人がいるのは、とても嬉しい。

ウェトンの方もこういう新しいことに挑戦するのは楽しみなうえ、リーデラとは違い決まった場所で働いてるからという理由ではあったものの、申出を受け付け、それをリーデラに伝えるためリストアップしておくという、そこそこの大役をもらったことに張り切り、いつもより活動的になっているようだった。


なんとなく、根拠は無いが良い傾向だと思う。上手くいくといいな。そう思いながらリーデラは仕事をしに行くのだった。


「ウェトンさん、ちょっといい?」

「はいはーい」

入れ違いに、ふだん来ないお客さんが酒場に入っていく。



これからたくさんの癖の強い商品や施設と出会うことになるのを、リーデラは未だ知らない。

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癒し巡りの獣人商人〜2人で探す至高の息抜き〜 ドロピケ @pixel25258_doropike

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