第3話プールで運動!
リス獣人、リーデラは焦っていた。
というのも、前に食べた寒天を気に入り、再度購入するためにラベルをみたところ、熱量の高い食材が鬼のように使われていたからだった。
そして、おそるおそる風呂場に備え付けられてた体重計に乗ったところ……
「やっば…………」
人生で1番重くなっていた。
寒天だけが要因でなく、働いてはストレスを少しでも減らすために暴飲暴食してたのもあるだろう。
リス獣人は代謝がいいからー、と体重を見て見ぬふりをしたことに対するツケが回ってきていたのだろう。
「……というわけで、ウェトン、今回は私が癒しの探しの内容を探してきたので、そこに行きましょう、徒歩で」
「徒歩ってリーデラらしくないね、いつも馬車つかうのに〜、あ、お散歩も癒しってこと?」
「……そう、そうね…ところで忘れ物してないわよね?ちゃんと言われたものもってきた?引き返すのは嫌よ?」
「大丈夫!ちゃんと可愛いの持ってきたから〜」
無邪気なウェトンを引き連れて早朝の町を歩き、
目的地まで向かっていく。
歩幅の狭いリーデラにとっては、街をちょこっと歩くだけでもそこそこきつい運動だ。何より今日は気温が高く、リーデラの頬には汗が伝っていた。
「ここ?」
「そう、ここ。」
看板にはプールの文字。
日が照っているこの時期に陸上競技やランニングをしてしまえば、運動によるストレス解消どころかしっぽや耳付近に熱が溜まってしまい、すぐにバテてしまう上に、
祖先が爬虫類であるウェトンは汗をかきづらい為、1歩間違えるとウェトンが体調を崩してしまう。
そこでこれだ。冷たい水に触れ、尚且つ水の音や波でリラックス。
今の状態ならば最適な運動かつ癒しになるだろう、そうリーデラは思った。
水着に着替え、準備を済ませて指定されたプールに向かう。
「にしても随分思い切った水着にしたのねウェトン……」
「この為に買ったの!」
「すぐ新しいもの買うんだから…それに…今日のプールは普通の水じゃないから、前に着てた水着のほうが良いと思うんだけど……」
「大丈夫大丈夫!私泳ぐのは得意なんだから!」
そんなことを言いつつも、プールに入ると、
水面から水が浮き形を作り始め、人型を形成する。
「わっ!?」
「ああ、どうも……先日はお世話になりました。」
ウンディーネ。水分に自らを溶け込ませることの出来る種族。リーデラは過去にここで水質を改善する薬剤を売ったことがあったので、
ここの特異なプールのことを覚えていたのだった。
「ええ。にしても……普通のプールではなくここにしたのですね、リーデラさん。」
「まあ、そうですね……お世話になってるので。」
世話になっているというのも事実なのだが、
体重計にのる要因となった寒天。あれから連想したなんて口が裂けても言えなかった。
なによりモンスターのスライムが進化して知能を持ったものがウンディーネや人型のスライムにあたるからだ。倫理的にもよろしくない。
リーデラだってリス肉を食べたからリーデラを思い出して会いに来た、なんて言われたら身の毛がよだつだろう。
「とりあえず、私のプールが波の立つプールというのは知ってますね?普通のプールより疲れますがよろしいですか?」
「えっ!海に行かなくても波が出るの!?楽しそう!」
喜ぶウェトンを見て一旦脳裏に湧いた寒天を消去するリーデラ。勝手に気まずくなる為ではなく、泳ぐ為に来たのだと気持ちの仕切り直しをして、構える。
にしても泳ぐのは子供の頃以来だ。
「それでは行きますね」
ちゃぷちゃぷと水面が波打ち、やがて水流となる。立っているだけでもそこそこな圧力がかかり、まるで流れる川のようだ。
ウェトンの方を見ると、蛇の体を器用にくねらせ、水面を這うように泳いでいる。
これは負けてられない。
リーデラも足を水底から浮かせ、幼少期の記憶を頼りにしつつも泳ごうとする。が。
「…がぼっ!?」
幼少期よりも大きく成長したしっぽは水を大量に吸い、どうあがいても体が沈んでいく。
見かねたウンディーネは一旦水流を止めた。
「リーデラ、泳げなくなったの?」
「いえ、これはおそらく体毛が水を含んでしまって動けないのでしょう……」
屈辱を感じつつも体が引き上げられ、
小柄な体に合うのがそれしかなかったため、子供用の浮き袋をつけられる。
「大丈夫です、成長につれて体毛の多くなる獣人にはよくあることですから、落ち込むことはありません」
「……そうだよリーデラ!それに地上ではリーデラのほうが走るの早いし!」
2人のフォローが胸に刺さる。
びしょ濡れのお陰で滲んだ涙を誤魔化せて良かった。
でも、ここまで来たら最後までやりたい。
恥ずかしさを飲み込む。
「だ、大丈夫です、これなら泳げるので続けてください。」
続行。
水流が再開されたプールをまた泳いでいく。
ウェトンの游ぐ速さには到底追いつかないが、
水流に、重いしっぽに抗い、少しづつ、少しづつ進んでいく。
あと少し。あと少し。
やがて指先がコツンとプールの壁に触れるのを感じる。泳ぎきったのだ。
「お疲れ様です、しっかりとやり遂げましたね」
「やったねリーデラ!」
「う……うぅ」
恥ずかしさと身体的なデメリットに打ち勝って完走した。その事実に安堵し、リーデラにはあるものが込み上げてきていた。
そして時は夜。
「ごめんリーデラ!気づいてあげられなくて!」
リーデラはウェトンの布団で寝込んでいた。
「まさかずっと浮きっぱなしで酔ってるなんて……ごめんねほんとに……」
「ぐすっ、ぐす……」
そう、あの時込み上げてきたのは涙ではなく、胃の内容物だったのだった。
浮き袋によって体が沈むことはなかったが、水面に浮いたまま水流に体が揺さぶられ、リーデラは激しく酔っていたのだった。だが、本人は泳ぎ切りたいがためにそれに気づかず、完走と共に盛大にリバースした。
幸いプール自体はほぼ人が来ず貸切状態だった上、ウンディーネはこれもよくある事ですから……と苦笑いで許してくれたものの、
子供用の浮き袋を着けた状態でリバースし、更に吐瀉物の処理をウェトンやウンディーネにやらせる羽目になってしまった事実はリーデラの心にそこそこの傷をつけた。
「泳ぐのはもう懲り懲りだよ……!」
リーデラの悲痛な声がしばらく部屋に響いた。
結果としてショックからリーデラの体重が減って、ダイエットが成功することになるのはまだ誰も知らない。
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