第3話 異世界クマvs転生者

「おらっ! 怖くないのか?! 切るぞ!」


 ハルキはプルプル震える剣先をクマに向ける。クマはギラついた目をハルキに向けたまま制止した。クマもハルキの殺気を感じて臆しているのだろうか……そう考えたのも束の間、クマは突然ハルキに方向に走り出した。


「やばいやばい、こんな剣じゃ絶対無理だぁ! 」


 情けない声を上げながら剣を放り捨てるハルキ、だが転生1時間もせずに命を捨てたわけじゃない。手を前にかざし、貰ったばかりの能力を全力で発動させる。


「創造!」


 手の先に創造されたのは子供や華奢な女性程はあるのでは無いかと思われるほど大きな盾。ズドンと大きな音を立てて地面に突き刺さり、ハルキとクマの間に立ち塞がった。


 滑り込む形で疾走を中止するクマ、その隙を見計らってハルキはすぐさまクマの真横に抜ける。そして創造した麻酔銃を打ち込んだ。銃と付く割に間抜けな音と共に発射された注射筒はクマの胴体に突き刺さった。


「よし、決まっ……てない?!」


 多少後退りこそしたもののクマは再びハルキに狙いをつける。ハルキの行動にはいくつかミスがあった。1つ目は威嚇突進の可能性を無視してこちらから攻撃してしまったこと、2つ目は麻酔銃を信用しきってしまったことである。それによってクマは本格的にハルキを外敵として認識してしまった。


(どうする? いっそミサイルでも創造して……ダメだ、絶対俺まで吹き飛ぶ!こうなったらヤケクソしかない……!)


 ハルキは一か八か、1度も触れたことが無い拳銃を両手に創造して全力でトリガーを引いた。初めての衝撃に耐えながら必死にクマめがけて弾丸を射出する。1発1発がクマの体を貫く毎に鮮血が舞うが依然としてクマの突進は止まらない。このままでは突進で倒され、2擊目の前足でおしまいだ。


 更に絶望的なことが1つーー


「た、弾切れ……!? 」


 両手でカチカチと鳴ったきり何も発射しなくなった拳銃。反動を恐れてライフルやガトリングガンを選ばなかったことが裏目に出たのだ。自然の猛威相手に拳銃など急所に当てなければ意味が無い。


 ハルキは拳銃を投げ捨てると、女神から授かったもう1つの力である強大な武器の方に賭けた。


「強大な武器、出ろ!!!」


叫ぶハルキの必死さとは真逆に沈黙を保ったままの手の感触、爽快なほど不発である。無情にも眼前には巨大な影が迫るーー


 割って入るようにもう1つ、白い影が音もなく現れた。


 動けないハルキを気にすることなく、純白の魔女、とでも形容するのが相応しい彼女は持っている杖の先、眼球のような青い宝石から涙を零すようにクマの方へ傾ける。たったそれだけだった。彼女の長い銀髪が一瞬ふわっと持ち上がったかと思うとクマは杖の先から出る閃光に直撃し、飛びかかる体勢のままゴロりと倒れ込んだ。


「あ、ありがとうございます!」


 感謝をしたハルキの声に振り向いた彼女は、ハルキの顔を見つめ、それから物色するように辺りを見回してそう呟いた。年はハルキと同じ高校生程だろうか、しかし、正面から見た彼女はどこか浮世離れした美しさを持っていた。森と、魔物の死骸と、土と、その中に立つ彼女は異物とさえ感じてしまう。


 状況に気圧されて何も答えられないままのハルキに対して彼女はクマにしたように杖の先をコロりと傾けてから、再び口を開いた。


「私は天瀬礼澄アマセレイス。端的に言うけど、あなたも転生者よね?」


 望む答え以外ならば、あの猛獣のように扱うという意思表示を込めて……







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