グリーンアイドガール
村瀬 雪
グリーンアイドガール
嫉妬している人ほど見ていて苦々しいものはない
週末のご褒美として友人と訪れた高校生にしては値の張るコーヒーショップ。
列に並びながら友人と話している時にそんなことを考えてしまったのは、私たちの前に疾石が並んでいることに気が付いたからに他ならないだろう。
―――
疾石について、彼女が普段なにをしているのか、何を考えているのか、そもそも彼女と話したことすらない私はそういったことを一切知らない。私が知っているのは、彼女がいつも何かに嫉妬しているということだけだった。
例えば、文化祭で大盛況だったバンドのメンバー。
例えば、球技大会で華麗にレイアップを決めたバスケ部員。
例えば、今疾石の前にいるファッションセンス抜群な女性。
挙げればキリがないほどに、いつも彼女の瞳は嫉妬に塗れていた。
私の中で、疾石は嫉妬そのものの象徴になっていた。努力を重ねて結果を出してきた人たちを、彼女は結果だけ見て嫉妬する。そんな彼女の姿は、私にとってどうにも受け入れ難いものであり、故に彼女は見ていて苦々しい。
―――
「ご注文はお決まりですか?」
気がつくと、疾石がちょうど注文する番になっていた。注文の時間が迫り、慌ててメニューに目を走らせる。目に留まったのは「ロブスタ」という見慣れない名前。なぜかその名前に惹かれ、それを頼むことに決めた。
「ロブスタでお願いします」
偶然選んだロブスタだったが、疾石が同じ名前を口にした瞬間、私はその偶然に動揺してしまい、思わず固まってしまった。
「あの、お客様?」
店員さんの声に、私はようやく現実に引き戻された。周囲を見渡すと、疾石はいつの間にか消えていた。
「あっ、すみません。ロブスタでお願いします」
「…?」
店員とのぎこちない会話に違和感を覚えながらも、何がおかしいのかはっきりわからず注文を続ける。
「えっと…ロブスタでお願いします」
「…こちらになります」
カウンターに置かれたどうやらコーヒーらしいロブスタを受け取る。
「大丈夫?なんか疲れてるんじゃないの?」
テーブルのある方に移動しながら受ける友人の心配の声。
「いや、疾石さんの事を考えていたらちょっと…」
責められているわけでもないのに、言い訳のように理由を話し始めようとして、
「疾石さんって誰?」
友人の言葉に少しばかし不穏な雰囲気を感じ取り、
「ほら、さっき前に並んでた…」
友人の顔はいまだ怪訝そうな顔を浮かべたままで、
「ほらこの写真の…」
その表情が私を少しずつ恐ろしい真実へと導いていくようで、
「私達しか映ってないじゃん」
脳が理解を拒もうときて、しかし点と点は繋がっていく。
あぁなるほど。
疾石とは――私だ。
私の中で生きる醜い嫉妬の怪物だ。
拒もうとしても拒みきれない感情の具現。
彼女は、彼女こそはグリーンアイドガール。
いずれ私を喰らい尽くすもう一人の私。
ロブスタの匂いに包みこまれた気がした.
グリーンアイドガール 村瀬 雪 @yuki0sikase
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