第5話 科学的無神論の反省から始める宗教社会主義

どうもこんにちわ。スクエニのトライアングルストラテジーの件でコメント頂きましたので何となく書いてみます。


「トライアングルストラテジー」というスクエニのゲームです。丁度ウクライナ侵攻が始まった時と同じくしてリリースされ、エスフロストという氷に囲まれた北方の資源大国が突如主人公の国「グリンブルク」に攻めて来て、体験版では速攻で王都が陥落するような話になっているゲームです。トライアングルと称されるように、北ドイツやポーランド、ロシアなどをモデルにした中東欧地域を扱った三国志なような作品のゲームです。非常に時事ネタと親和性が高く、人道(人権)という西側の価値観を守るために戦え的なタイムリーな内容になってます。


主人公の国グリンブルク王国はいわゆる「諸侯」です。モデルはプロイセン(北ドイツ)だろうと思われます。国旗がウクライナのそれと同じ青と黄色(西側にはあまりないデザイン)です。主人公は諸侯ですが、王都があってそこはまるでウクライナの首都キーウのように、ドニエプル川が流れてるような地形になってます。


主人公の国をいきなり侵攻してきたのは、エスフロストという雪と氷の資源大国です。ロシアを彷彿とさせる国ですが、なぜかイデオロギー的にロシアと正反対な自由主義(ネオリベっぽい)の国という事になってます。モデルは敵キャラの名前も相まって、スウェーデンとロシアだろうと思われます。


それで、エスフロストと別の国、砂漠のど真ん中に中東っぽい街並みの宗教国家聖ハイサンド大教国という宗教国家があります。この国は塩という事実上の国際金融を牛耳っており、トライアングルという三国関係の話なのに、見事にウェストファリア・システムを(このゲームに国家主権なるものがあるかは不明ですが)瓦解させてるというプレイヤーです。


モデルは塩田がある事から、ヴィエリチカ岩塩坑があるポーランドだと思います。


見た目は、イスラエルのエルサレム旧市街がそのままポーランドに引っ越してきたような印象で、何ともシオニズム感を感じられる風景となっております。


この聖ハイサンド大教国のモデルはポーランド以外にも宗教福祉国家やっているイランやベネズエラも入ってるのだろうなと思いました。


それで思ったのは、私のような旧ソ連があった時代を記憶してる年代からしますと、宗教国家が社会主義をやってるのは何とも隔世の感があります。


昔は社会主義(共産主義)というと、カール・マルクスの「宗教は民衆の阿片」という言葉があるように、宗教と科学的無神論をベースとする社会主義は対立関係にあると思われてました。そういう事だったのを覚えてます。


それなのに、今どきの若い子は(トライアングルストラテジーのユーザーが若い子なのかは差し置いて)宗教が社会主義やってるのに違和感がないものだなと、時代が変わったのを思い知らされました。


それで気付いたのは、旧ソ連時代のロシア正教を弾圧しすぎた事といい、西側諸国よりも近代に適応してない脳内を持つ東側諸国の民衆には、「科学的無神論」をベースとする社会主義は難しかったと反省したのではないかと思いました。


あまりに強引に宗教を攻撃し過ぎて民衆の反感を買って、それが社会主義というイデオロギーの限界だったのではないか?そう考えた人がいるはずです。それが結局的に旧ソ連崩壊に繋がって、その空白を埋めるためにロシア正教が大復活したと。このあたり、旧ソ連のイデオロギー的限界は佐藤優の「自壊する帝国」に詳しい。


その方針転換となったのは1979年のイラン革命です。親米国家だったパーレビ朝のイランが、ホメイニ師の革命によって宗教国家になるわけです。宗教国家と言っても、パーレビ朝時代の格差の是正や社会福祉の増大などがあり、今やイランは中東の中では大層な教育大国です。最近、イスラエルの件で急速に強国認定されつつあります。つまり宗教福祉国家です。


イランという国がなぜ親米国家じゃマズかったのかと言うと、すぐ上が旧ソ連の構成国のアゼルバイジャンやトルクメニスタンに接していたからです。あまりにも格差が拡大し過ぎると米ソ対立の時代に旧ソ連にやられると西側は思ったからです。


また同じ頃旧ソ連はアフガニスタンに侵攻して大失敗してます。これが東西冷戦終結の一因となった説もありますよね。


イランでの成功とアフガニスタンでの失敗から、科学的無神論では宗教熱心な層を切り崩せないと思ったからです。特にイスラームはキリスト教以上に科学的無神論を受け入れない難しさがあったと。


科学的無神論を受け入れなければ、宗教の社会主義的な側面を増大させればいい。そう思ったわけです。


イラン革命を成功させたホメイニ師は、イスラーム法解釈で労働者の権利向上的な法解釈を出してます。


それと時を同じくして、アメリカの裏庭扱いされていた中南米の親米独裁政権の事がありました。腐敗国家で凄まじい格差がありました。30年前の日本は、それらの中南米の親米独裁政権の国を見て日本とは関係ないと思ってましたが、今やどうでしょうか?


そこでの格差の是正のために「解放の神学」というマルクス主義の方法論を使ったカトリック神学が出てきました。


現代の社会主義は、旧ソ連時代の科学的無神論をベースとする社会主義ではなくて、どうやらこの中南米の「解放の神学」をベースとする宗教社会主義の流れがあるような気がするのです。


その前になぜ「解放の神学」という不平等を是正する神学が出てきたかというと、中南米に介入したアメリカに対する抵抗運動というだけでなく、教会の中では比較的マルクス主義の研究は自由だったそうです。


現教皇のフランシスコ教皇はアルゼンチンの出身で「解放の神学」と浅からぬ関係があります。その前の教皇のベネディクト16世は異端審問所を復活させて、「解放の神学」の関係者をバシバシ破門してたそうですが。


この「解放の神学」ベースの宗教社会主義これらが21世紀の社会主義(共産主義)のグランドデザインとして描かれてるかも知れません。キリスト教に限らずそれらは他の諸宗教にも描かれると。


それでタイトルは「科学的無神論の反省からの解放の神学としての宗教社会主義」としたかったのですが、長すぎて意味わからなかったので省略しました。


さて、トライアングルストラテジーの聖ハイサンド大教国に話を戻しましょう。


先に聖ハイサンド大教国はポーランドがモデルの国だと申し上げました。塩(ヴィエリチカ岩塩坑、貨幣経済が通用しない地域でも貨幣の代わりに通用する塩。古代ローマの兵士の給料が塩で払われていた事など(ラテン語のサーリス、ソルジャーの語源)などなど)から連想される項目です。


アメリカのユダヤ人は少なからずこの国にルーツを持つ人がいます。ニューヨークのユダヤ国際金融資本とも浅からぬ関係性がある。


また、ポーランドというと昔のNHKの報道などでは、旧ソ連の強権的な体制を嫌う国民性のような話が沢山喧伝されました。


中東欧の民主化革命には、チェコのビロード革命の仕掛け人のトマーシェック枢機卿など、教会関係性がいました。全世界に広がるカトリック教会が恐らく西側の情報を流していただろうと思われます。


東ティモールのインドネシアからの独立でもカトリック教会の説教が西側の情報源として活躍してました。


NHKの報道では、そんな宗教的な背景を抜きにして、ポーランドは西側と同じ価値観を持つ、自由と民主主義を求める国民みたいな報道ばかりがされてました。


そのイメージを持つ私からすると、なぜポーランドがモデルの国で宗教社会主義をやってるのだろうか?おかしくないかと?


ワルシャワにある「文化科学宮殿」というスターリン様式の建築がありますが、アレはかなり現地人から嫌がられてたという話は有名です。


なぜ、ロシアの強権的な体質を嫌ってる国で宗教社会主義なのだろうか?と思いました。


それはこうです。ポーランドという国は大平原の国です。当然、遊牧民の気質が知らぬ間に入ってるのです。格差が当たり前の西欧と違って、遊牧民の気質は公平性、平等を求めます。共産主義と遊牧は実は相関関係があると言われてます。


恐らくですが、ポーランドは熱心なカトリックの国なので、共産主義の科学的無神論の押し付けが、カトリックの信仰を持つことで民族的アイデンティティを保ってきたポーランド人には壁になってたと思われます。


トライアングルストラテジーの作中で、女神信仰がありますが、これはポーランド特有の聖母マリアへの信仰の揶揄でしょうか?


カトリックの信仰が民族的アイデンティティなので、それを捨てることはできないが、宗教を認めた福祉国家のようなものには気質的に親和性があると。


ゲームクリエイターはそのあたりの事情に実に詳しいですね。そんな話でした。

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