二章 冒険者編 (ここから見始めても楽しめます。)

第9話:兄弟でカップル割引しちゃった

「すいません、今晩泊まりたいんですけど2部屋空いてますか?」


疲れ果ててへばっている俺に肩を貸してくれているシュヴィが言う。


女将おかみは俺の方をチラッと見た後にニヤニヤとした顔で笑った。


「いや〜、実は昨日から水漏れがひどくて使えるのは一部屋しかないんだ。同じ部屋でいいなら泊めてやれるぞ。」


しかも今ならカップル割引もしてやれるぞ、というあたりこの女将は完全に誤解してしまっているのだろう。


この女将変なところで気を回しやがって!カップルじゃなくて兄弟だっつーの!


「ええぇっと、じゃっ一部屋でもいいので泊まらせてください!そ、それとカップル割引もお願いしますね。」


シュヴィは全体的に紅潮こうちょうした顔でゆったりと伝えた。


「えええぇ!?いいのかシュヴィ?」

流石にまずいと思った俺はそう聞いたところシュヴィから口を閉じられる。


シュヴィは俺の耳元に口を近づけささやいた。


「お金は無限じゃないのです。節約できるところでしていきましょう?」


ふわふわとしたショートカットで藤黄色とうおういろ(ほのかに冴えた金色)の髪が俺の肩にかかる。さらに、どことなくいい香りがしてくるし紅潮したシュヴィの顔はなまめかしい。


胸の太鼓が早鐘はやがねを打つ。今は夏のようだし現世では夏祭りでもやっているんだろうか。それか花火かもしれないな。


恥ずかしかったのと疲れていたのでうんうんと首を振って了承のむねを伝える。


「お二人さん、本当にカップルなのかい?カップルじゃないのならば、割引は使えないよ?」


「私たちはカップルです!ね?リュート。」


どう見ても歳の差がはっきりしすぎていて怪しいだろうけど、、


「本当にカップルというならばできるはずだよね?その場でキスしてみなさいな!」


女将はキリッとした瞳で俺たちの間を見る。


ってえええぇぇ!?無理無理こんな少女とキスしたら一発で警察に連れて行かれる!!この世界に警察なんているのかな?いやいやそんなこと考えている場合じゃないな。


「流石にこんな人目のつく場所でキスなんてできません。な!シュヴィ?」


女将は明らかに不満そうな顔を俺に向ける。シュヴィの方を見ると相変わらず赤い顔のままちょっとうつむいていた。


「りゅーと、、来て?」


そういってシュヴィは手を広げた。さっきの言葉を思い返して唇に目を向けるとやけに艶めかしい。ぷるんとした唇は湿っていて小さい体ながらも色気がある。俺のことや節制を考えている優しい彼女のことだ。キスも本意ではないのかもしれないな、、


「おねがい、、私とちゅーして?」


そう言ったシュヴィを前にして先ほどまでに考えていたことはもう思い出せない。体がシュヴィを求めて動いてしまった。


「いいもん見せてもらったよ!ほれ部屋の鍵だよ。」


そういって女将はくつくつと笑い俺たちに鍵を渡した。


もー恥ずかしすぎるよ!! シュヴィもシュヴィでなんであんなにノり気だったんだよ!


部屋に入ると、どことなく懐かしい感じで六畳間の和室だった。


先ほどキスをしたせいかまだ体の熱が冷めないでいる。それにシュヴィも何も言わないからちょっと気まずい雰囲気だ。


「えーっと、、お兄ちゃんは先にお風呂に入ってくるからそこでくつろいでいてな?」


「リュート、今日の私たちはカップルですよ?お背中お流ししますから一緒に入りましょう?」


ワクワクとして笑顔な彼女をもはや止めることはしなかった。


浴室は意外と広く、浴槽は二人で入っても若干余裕があるほどだ。


「お兄様、今日はいろいろあったよね、私が連れ出したっばかりに、、」


シュヴィは申し訳なさそうに伏せ目がちになる。切れ長のまつ毛の先端に水滴がついている。


「シュヴィ、俺は楽しかったぞ?久しぶりに来た村を探索できたし、魔獣に出会ったけれど結局俺はお前を守ることができたし、母魔獣を殺したことについてもちっとも後悔しちゃいない。」


そう言うとシュヴィは近づいてきて、俺に抱きつく。いいか諸君ここは風呂場だ。決して興奮しているわけではないが、俺の胸がすごく熱くなる。


「わたし、、怖かったんです!お兄様までいなくなっちゃうんじゃないかって、不安で不安で仕方なかったんです。」


溜まっていた大粒の涙がまぶたから落ちてくる。ぽつりぽつりと湯船に落ちて音を立てる。


震えている彼女をしっかりと抱きしめる。小さい体の振動は徐々に小さくなる。膨らみかけの胸が俺に密着する。


そういったよこしまな気持ちはとりあえず封印して彼女の瞳を見つめる。


「シュヴィ、不安にさせてしまって悪かったな。」


しばらくして風呂から上がって二人並んで布団で寝そべる。


「お兄様、なんかのぼせちゃったね?」


「うん、だから風呂場で長い間抱きしめ合うのは控えようか。」


先ほどまでの恥ずかしい姿を思い出してかまたシュヴィは顔を真っ赤にさせた。


「うぅ、うん!」


今日は、、とういうかここ数日いろんなことがあったな。ありすぎといってもいいだろう。久しぶりにゆっくり休めるといいな。

「おやすみ」

そう言って瞼を閉じた。


ーーーーて、、起きて!お兄様!!


ん?


目が覚めると俺とシュヴィは見知らない場所にいた。


その場所は見渡す限りの草原で遠くに森と街が見えた。それに草原には魔物や人間の姿が見える。


日記で見た場所と同じだ。ここは人間領で王都付近のサイショの草原、しかもVRゲームでもここは有名な最初のレベリングスポットである。


耳を澄ますと、手元の魔獣の卵からコツコツと音が聞こえる。

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