第7話:侵入者

 庭で遊んだ後は村へ行きたいと言ったシュヴィに連れられて初めて村へ向かう。


「お兄様!大きなひまわりが咲いてますわよ!」


 シュヴィの指差す方向には約2メートルの巨大なひまわりの群生地があった。

 家と村とを繋ぐ道沿いにあり伸び伸びと生えていて、太陽を享受しようとしていた。


 そこでシュヴィに目を向けるとひまわりに負けないくらいの爛々として瞳を輝かせていた。


「お兄様、こっちのお花も綺麗ですの!」


 久しぶりに俺と外出できて楽しいのだろう、俺にとっては初めての外出でとてもワクワクする。


「見たことのない花だな、これはなんて言うんだ?」


 きょとんとした表情のシュヴィは答える。


「見たことない?この辺りではそんなに珍しい花じゃないんだけどな。」


 あ、失念していた。俺ことリョウスケにとっては初めての場所でも体のリュークにとってはこの道は歩き慣れた場所であるはずだ。それなのにメジャーな花の名前も分からないのでは不自然である。


「あーいやド忘れしちゃってな」


村の入り口につくと門番のような魔族が立っている。遠目から見た村と異なり、囲いはシンプルな木の柵で多種多様な魔族がいるだけでなく魔物も放逐されていた。


村の正面の看板にはと書かれていた。


「おやおや、これは魔王様の息子じゃないですか。珍しいこともあるものですねぇ。」


 門番の装いをした男はねっとりとした言い方で俺にだけ挨拶した。日記によると俺は社交界に出ていないだけでなく、幼少期に村で大騒ぎしたとかであんまり受け入れられていなさそうである。


「いつもお勤めご苦労様です。今日は妹のシュヴィに連れられてノス村へと訪ねさせてもらいました。誓って騒いだりしませんのでどうか入ることをお許しください。」


 そう告げると、門番は目を開き大笑いした。魔王の息子だと言うのに謙《へりくだ》りすぎてしまっただろうか。そこまで笑われるとバツが悪いな。


「あんだけツンケンしていた奴がここまで変わるとは稀有けうなこともあるもんだばい」


 そう言って門番は門を開けて通してくれた。


「、、、、、やっぱり最近のお兄様って変です。」


 そうやって伏せ目がちで呟くシュヴィ。心なしどこか心配しているような表情をしている。


「シュヴィ、俺は変わるって決意したんだ。家族と急にご飯を食べるようになったり、村で門番と会話したりってのはほんの序の口だよ。これからも親切な対応をしていきたいんだ。」


 そういった後二人で村の商店などをまわっていろいろお買い物をした。


 初めて来た俺だけじゃなくシュヴィも全く村に来る機会がなかったとかではしゃぎ回っていた。幸せだな、周りの雰囲気はだいぶ変わってしまったし、まだ向こうの世界には帰れない。それでも今の生活がここまで充実していることに密かに満足感を得ていた。


魔獣警報まじゅうけいほうが発令されました。直ちに家の中へ避難ひなんしてください。繰り返します、、】


 村の中心に置かれていた鐘が鳴りあたりに警報音が響く。村人は慌てふためきつつも避難は順調そうだ。


「お兄様!あのお店に入れてもらおう!」


 俺とシュヴィはペンダントを売ってあったお店に入れてもらい急場をしのぐ。

 店員は快く受け入れてくれた。


 外を見ると柵を越えて狼のような魔獣が作物をはじめ、動物も食い荒らしているのが見えた。4匹ほどの群れで集団で襲いに来ている。


 しばらくすると槍を装備したリザードマン風の男たちが現れて狼魔獣おおかみまじゅう正対せいたいする。

 お互いの数は同数だが、どうにもリザードマン風の男たちがふるえているように見える。


「ここいらで魔獣警報なんて滅ったにならないから駐屯兵たちも戦闘は未経験なんだよ。それにこんな辺境な村には整った武器もないし、こりゃ負け戦だろう。」


 店員はそう言った。


 魔獣というのはここ魔大陸に生息していてたびたび村や町などに来て襲っていくんだそうだ。魔物と違って魔石から力をもらって生存しているため、畜産にも向かない。

 本物のだ。


「シュヴィ、俺行くよ。あいつらを守ってやりたい。実行するほどの力がありながら見ているだけは嫌なんだ!」


 シュヴィからの待っての声を聞かずに店を飛び出し戦闘の様子を見る。


 リザードマン風の男のうち一人は足を噛まれてうずくまっている。それを見たもう一人の男がひざをついて倒れる。


 そう見ても壊滅的かいめつてきな状況だ。俺には魔法はあるが4匹まとめて殺せるほどの魔法が使えるかは未知数である。


「くっ来るな!!」


 リザードマン風の男はしきりに叫ぶ。青い肌に鮮血が散る。また噛まれてしまったようだ。


 彼らは血を吐き倒れる。決死のやりが狼魔獣の腹に刺さったがどうにも効いていないようだ。体長3メートルの大柄な狼が吠えて周りの狼も続く。


 これは捕食に合図だ。助けるならこのタイミングしかない、相手の警戒心が一番弱まる瞬間だ。


「火球!!」


 俺はリザードマン風の男たちと狼の間に飛び出して魔法を使った。手応えはある2匹は火球で飛ばされて、毛皮が燃えてもだえている。直接当たることをまぬかれた残りの2匹はキリッとした瞳で俺を睨みつける。


 すごい威圧感だ。剥き出しの牙が今にも飛びかかってきそうな狼によく似合う。

 それに血がところどころについているのが見える。


 残り2体をどうやって仕留めるか。


「ファイアランス!」


 片方の狼に目掛けてリザードマン風の男の持っていた槍に火を纏わせて投げる。


 放たれたランスは徐々に纏わせる日を大きくさせながら着弾し、狼の体を貫き体内の魔石を破壊し完全に殺した。


 俺の周囲は槍を投げた時の風圧で揺れている。そのせいあってか着弾した後の槍の火が膨れ上がりもう一体の狼に襲いかかる。毛皮がよく燃えて、その場に回り込むようにして鎮火を試みている。


 後ろに引いた狼を合わせて後3体。やつらは燃え上がっている。


 ファイアランスを使うとして槍は2本しかない。それに魔力がどこまで持つか分からない。火球では絶命させるほどの力は出せない。


「ファイアランス!ファイアランス!!」


 残り2本の槍を狼に着弾させて魔石を完全に壊した。


 最後の一体になった。毛皮が燃えきり狼の地肌が剥き出しになっている。

 ドーベルマンのような風貌のやつの額には魔法陣のようなものが描かれていた。


 それに気づいた時に額からツノが生えてきていることに気づいた。


 狼は吠えた。それと同時に雲が揺れ動く。周囲に雷が落ちて、分身のような狼が現れる。分身は雷を帯びていて実態はないように感じられる。

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