第6話:父親の責任 庭であったこと
さあこいと言わんばかりに両手を広げるアイルトン。
しかしまあ魔法なんて使ったことがないし不安だ。そういえばウリエルからの書物と日記では魔法の発動にはイメージが重要だということが書かれていた。
不安そうな顔をしていると父さんが俺の肩に触れた。
その時、体の奥底から力が湧いてくる気がした。肩から心臓へ、指先に至るまで高濃度の力を感じる。なぜだが少し暖かいような。
「リュークよ、これが魔王の秘術で強化された魔力だ。」
アイルトンは気を取り直して自由に打ち込んでこいと豪語した。
(イメージは火だ。家族を照らす暖かな火。それに決意の火でもある。魔王の秘術は受け継がれてきたもの、それを俺に託した父さんの想い。先代の想い、、、全てを込めてやる!)
「おらああ!」
俺は右拳を前に突き出した。腕が熱い。それに腕の周りを火が囲っている。
拳に目をやると真っ直ぐと俺を見つめた父さんが片手でその拳を受け止めている。
一瞬、顔を曇らせた父は瞬きの間に笑顔に変わっていた。
「リューク!いいぞその感覚を忘れるなよ」
結果として俺の魔王としての力はしっかりと継承されているらしい。
次代魔王は俺だ。この力の使い道はハッキリさせておかなければ、俺自身が世界を滅ぼしてしまうかもしれない。
「リューク、一つ聞いてくれ。次代魔王を独断で決めてしまったが、俺はちっとも後悔しちゃいない。他の家族ももちろん同意見だ。それにさっきの拳にはお前の想いが詰まっていた。もう何も心配はしちゃいない。お前がこの力を制御できずに暴走することは限りなく少ないだろう。だから安心して欲しい。」
父はそう言い残しその場を去っていった。
今この場所にはセイナと俺しかいない。
「セイナ、俺はこの力を家族を守るために使いたい。同時に家族以外にも使いたくないんだ。人間にも同じように考える。見に余る力だ、いつかこの身を滅ぼす時が来るかもしれない。この力を知っているセイナにはどうか俺を支えて欲しい。」
セイナは明らかに嬉しそうな顔をして言う
「私は一生涯をあなたにかけるつもりです。もともと魔王様からはそういった命令をもらっていましたし、個人的にいつかリューク様にお仕えしたいと考えていました。」
俺とセイナの二人で約束を交わして広間へと戻る。
広間ではシュヴィが待っていたと言わんばかりにこちらを見る。
「お兄様!お帰りなさい。もうお父さんとの話は終わった??」
「うん、終わったよ。そういえばシュヴィはここで何をしてたの?」
えっへんとでも吹き出しがつくぐらいのドヤ顔で腕を組み、お兄様を待っていたのと言う。いや可愛すぎか。
「俺を待っていたってことは何か用があるんだよな?遊んで欲しいのか?」
こっちこっちと手招くシュヴィを追って庭へ出る。こちらの世界に来て初めて外へ出たなと考えながら辺りを見渡した。自室の窓から見た風景と変わらず周囲は草原であり、うちに繋がる道の先には村のようなものが見える。
「お兄様と一緒に外であそにたかったの。だめかな?」
「ダメなわけないだろう。もう可愛いなぁ。」
俺とシュヴィの二人で庭であそんでいると空に現世ではいなかったふわふわとした生物がいることに気づいた。
まるで羊の綿をそのまま浮かせたような、ちょっとくらい触ってみてもいいだろうか?
ふわふわとした生物に手を伸ばした瞬間のことだった。
「お兄様あぶない!!」
シュヴィがそう叫ぶので咄嗟に伸ばしていた手を引く。
空に浮かんでいた生物はふわふわとした外装を外し、内側からは数千本もの針が見えた。フグのような見た目で、可愛いらしい顔立ちをしている。俺は捕食されかけていたのだと気づく。
「お兄様、あれはフグパサランという生物ですの。柔らかい外装を持ち、敵を欺き内側の毒針で外敵を気絶させる。この辺りでは珍しい生物ですわ」
「シュヴィのおかげで命拾いしたよ、本当に助かった。」
フグパサランってじゃあ害獣なのか。せっかく力があるんだし試しに燃やしてみようか。よく燃えそうだな。お試しで下位魔法の火球でも使ってみよう。
「火球!」
右手の平がどんどん熱くなる。野球ボールサイズの火球ができて、それが正面にいるフグパサラン目掛けて高速度で発射される。発射から着弾まで完全に目で追うことはできない。火球はナパーム弾のように弾けてフグパサランは跡形もなく消え去る。
妹の方を見てドヤ顔で威張ってみた。どうや、お前のお兄様は魔法も使えるんだぞ。
「ななっ、、、何やってるのお兄様!!」
あれれ思ってた反応と違うぞ?
「フグパサランって毒があるんだろう?害獣ではなかったのか?」
「フグパサランはその希少性がゆえにここらでは高価で買い取られているんだよ。それにあの毒は調合すると回復薬にもなる貴重なものなんだよ!」
あー完全にやっちゃったな。見栄っ張りのために燃やし尽くしてしまった。
「でもお兄様が無事でよかった。毒には致死性もあるし、火球を使ってくれなかったら私にも危険があったかもしれないし、ありがとうお兄様!」
シュヴィに近づき、精一杯頭を撫でてやった。
そういえばシュヴィってたまに語尾がおかしくなるような、、いつもは〜ですのと言った話口調なのだが危険が近くなった時とか知見を披露する時とか、もしかしてファッションお嬢様だったりするのかな?
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