第5話:魔王家の朝食会と地下室

大広間の扉を開くとそこには大きめのテーブルと10席の椅子があった。


テーブルの上には見たことのないような食事が置いてあった。どれもうまそうだな。


「「あっ!お兄ちゃんおはよう。久しぶりだね!」」


呼ばれた方を見ると双子の弟ハルとアキがいた。


挨拶を交わした後に、その隣に視線を移すと双子の妹のララとシュリの姿が見えた。


二人ともどこかそっけない態度だと思った。まあ当然だろう今まで一人で朝食をとっていた奴が初めて大広間に現れたのだ。


「さぁ、みんな揃ったみたいだし早速いただきましょう♪」


と言ったのは俺の母親サキュバスのキュートである。際どい服装の彼女だが言葉に棘はなく、理想の母親であるような包容力をもっている。


「母さん、少しいいか?話しておきたいことがあるんだ。」


そう一言置いてから、俺はその場に伏せた。


「みんな今までごめんな。みんなを蔑ろにしていたと自覚している。

それにすれ違ったとしても他人のふりをしたりもした。認めてくれとは言わないが、こんなダメなお兄ちゃんでも許してくれないだろうか。」


続けて

「今朝、セイナと話していてこれ以上みんなに悲しい思いをさせたくない、俺はこれからしっかり家族と向き合っていくと誓ったんだ。」


と今後の展望を話した。一番最初に口を開いたのは双子の姉のララだった。


「お兄ちゃん、顔をあげて。」


その声にはどこか威圧感がありながらも震えていた。


「別に誰も怒ってなんかいないよ、軽蔑もしていないし。私たちはお兄ちゃんが今日この場に来てくれて、それにみんなとの展望について語ってくれた。理由があるにしろ今までの行為も私たちにとっての受け取り方から考えて謝ってもくれたのだから、これ以上追及することはしないよ。」


次に口を開いたのは双子の妹のシュナだった。

「あーしも気にしていないよ。ただ、今までのおにぃよりも可愛い言葉遣いにドキっとしちゃった。」


そうして父が言った。

「リューク、俺はお前が今日この場に来てくれて本当に嬉しい。引きこもりがちなお前への対応が本当にあっていたのだろうかずっと不安だった。俺もお前ともっと仲良くなりたい。ちゃんと向き合って親子として扱ってくれる事に嬉々としてる。」


俺はいつの間にか号泣していた。この世界に来て1日も経っていないし、思い入れもないはずなんだが、VRゲームの好きだった悪役キャラがこうして家族に認められていることは本当に嬉しい。それに、俺自身も残り3000年を空虚に過ごすのではなくこんなにも暖かい家庭で過ごせることに安堵しているのだろう。


「さぁ改めて食べましょうね。」


食事はというと思っていたよりも魔物のエグ味がきつかった。よく異世界転生者がいうことだが俺は日本食のような繊細な味付けが好きだったのに、大雑把な味の魔物飯はどうにも受け付けない。


家族との会話は俺が引きこもってしていたことや上の姉の話などすごい弾んだ。


しばらくして朝食会はお開きとなった。


そうして朝食会後に父アイルトンに呼ばれて地下へと向かった。


「リュークよの方はどうだ?」


日記には父アイルトンが長男である俺、リュークの体に魔王の秘術をかけたと記述されている。それがどういったものなのかハッキリわからないが、呪いではないだろうとは思う。


「馴染んできております。体内の魔力が安定しており、いつでも魔法を扱うことができると思います。それに筋肉のつき方もよくなっており近接戦闘もできるようになると思います。」


セイナは父にそう言った。この世界では魔族のほかに人間族がいてしばしば戦争を仕掛けられるようだ。父も次世代育成のため前線を離れている。そういった状況下で戦闘ができる人材は貴重だろう。


「それは良いことだな。近いうちに辺境護衛を任せても良いかもしれんな。」


と大口を開き笑った父の瞳は少年のように爛々と輝いている。


「今日リュークをこの場所へ連れてきたのは他でもない、お前自身が力にどう向き合うのかを知るためだ。」


セイナはああいったが俺に魔法は使えないだろう。詠唱だとか小難しいものは知らないし、まあVRゲームの世界では遠近両刀型で勇者からすると厄介な敵であったからもしかすると俺にも使えたりするかもしれないな。


「父さん、俺は今までこの力をもらってから一度も魔力を使っておりません。暴発したりしないでしょうか、、それに魔法の詠唱なども知りません。」


父アイルトンはその言葉を聞き俺に正対した。


「俺は魔王だ。何があってもお前を守ってやるし暴走如きで失ってたまるものか。安心して力を見せてみよ。」


魔王ゆえの自信なのだろう。それに頼もしい声質だから、俺は安心できる。

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