第4話:新しい生活と家族
コンコンと分厚い扉にノックの音が響く。
「失礼します。おはようございますリューク様。よくお休みになれましたか?」
昨晩出会ったメイドの女性だ。ウリエルの残した書物によると彼女の名前はセイナと言うらしい。リュークの日記でもセイナについて言及されていたし、おそらく気軽に話せる仲であったのだろう。
「おはようセイナ。昨晩は部屋まで送ってくれてありがとうな。おかげでゆっくり休めたよ。」
実際は朝日が昇るちょっと前くらいまで書物を読んでいたためそんなに休めていないのだが、、
そんなことを考えているとセイナの頬が妙に紅潮していることに気づく。
「リューク様、、今私のことをセイナとお呼びになりましたでしょうか??」
期待をはらんだエメラルドの瞳は真っ直ぐと僕を見つめている。
「あぁそうだが。もし君が名前を呼ばれるのが嫌だったのならやめる。」
「あぁいえいえそうではなくて、、リューク様に仕えてから一度も呼ばれたことがありませんでしたし、てっきり忘れられているのかと。」
しかし妙だな、日記ではセイナについて書かれていて、、、
〔あのくそメイド!また俺とシュヴィの時間を邪魔しやがって!〕
と俺の日記には書いてあった。
あぁ、なるほど。兄バカすぎて他の家族には名前はおろか会話すらまともにしていないというのか。
セイナを見ると涙を浮かべており今にも決壊寸前といったところだ。
「私、、、私、ずっと嫌われているんじゃないかって不安で。ちゃんとメイドを勤めているつもりでしたのに一向に心を開いてくれないリューク様が。」
セイナは嗚咽混じりにそう言った。
セイナは魔王家にメイドとして雇われる前は、町の娼館でメイドとして働いていたそうだ。そこで職場内ハラスメントに苦しみ、意を決して町を出たそうだ。
幸いにも狩人が少なく魔族殺しもいない場所だったのでしばらくは生き残れた。
空腹で倒れそうな時にリュークの父である現魔王のアイルトンに保護され、魔王家で雇われることになったようだ。
彼女にとって職場でのストレスが過去のハラスメントをフラッシュバックさせる要因として作用するのだろう。俺が多少の謝辞を述べただけでこのありようならば、リュークのセイナへの態度は目に余るものがあったのだろう。
「セイナ、今更なんだけどさ謝らせてくれ。」
俺がこれまでとってきた態度は彼女にとって大きな負担に違いないだろう。
「今まで、俺はシュヴィとの時間を何よりも大切にしてきた。だからこそセイナの思いやりや優しさに目を向けてやれなかった。本当にごめんなさい。それと、今までしてくれた事を全て覚えているわけではないが感謝しているよ。これから俺はしっかりとシュヴィ以外の家族にも向き合っていくと約束する。」
実は呪いを庇う前のリュークは妹以外には暴君のように映っていて、他の家族からの印象は良いといえるものではなかった。
俺が今後の決意を表明するとセイナは満面の笑みを浮かべた。何この子可愛いな。
しばらくして泣き疲れたのだろうか、セイナは俺が座っていたベッドに突っ伏して眠っているようだ。そこで彼女を起こさないように、ソファに寝かせてやる。
「今まで本当にごめんな。いつもありがとう。」
そう囁きかけて頭を撫でた。
勘違いしてほしくないのだが今のは偶然現世での妹、サクヤと重なって見えたために起こった反射的お兄ちゃん行動であり、決して下心はないと誓える。
頭を手に押し付けるセイナは本当は起きているんではないだろうかと錯覚するほど、嬉々としている。
部屋から出て書物に書いてあったシャワールームへと向かう。
あんまり現世と変わらないシャワーに苦笑しつつ着替えを済ませて部屋に戻ると、セイナの顔からは完全に涙が消えていた。
「リューク様、では本日からは朝食も大広間で食べるという事でよろしいですね?」
リュークは普段早朝から食事だけ受け取って、自室で食べていたそうだ。だが俺はシュヴィ以外の家族も大切にすると誓った。
「あぁみんなで食べよう。」
階段で1階へ降りる最中にシュヴィに出会った。
「あっお兄様!体調は大丈夫ですか?シュヴィ心配だったんですの」
初めて会った時と異なり、白いレースがあしらわれた朱色のワンピースを着ていた。
なんか縁起物を見ているような気分になるな。
「おはようシュヴィ。もう大丈夫だよ。しっかりと休めた。」
「それはよかったです。それにこの時間に大広間に向かうということは朝食も一緒にとるのですよね?」
「そうだ。今日からはみんなで食べような!」
嬉しそうにしているシュヴィを横目に家族のことについて考える。
父であり現魔王のアイルトン
サキュバスの母 キュート
その他シュヴィ以外の兄弟たち。
父と母は俺が一人で食事をとることについて意を唱えなかったのだが、問題は兄弟たちだ。
俺の上に二人姉がいるのだが今は旅に出ているそうだ。
俺の一歳下に双子の兄弟 ハルとアキがいて、さらにもう一歳下に双子の姉妹のララとシュリがいる。
双子ズが俺と一緒にご飯を食べたいとよくせがんでいると日記には書かれていた。
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