第3話:なんたってそりゃ無茶でしょう
「まずは本当にすいませんでした!」
そういってウリエルは頭を下げた。
「改めまして、僕は見習い天使のウリエルと申します。今のあなたの体であるリューク担当の天使だったんです。」
どうやら天使というのはどの世界でも必ず一人につき一人つけられていて世界が終焉に陥らないように管理する仕事だそうだ。
先ほどからウリエルがしきりに謝っていることから、俺は間違えて呼んでしまったとかそういうトラブルに巻き込まれてしまったのだろう。
「そういうわけではなくてですね、実はこのままではリュークが呪いを受けて人間不信になりこの世界を滅ぼしてしまう可能性があるのです!」
しかし、この世界には勇者がいるだろうし魔王が世界を滅ぼすことはないだろう。
「それが、僕の同期のカマエルがヘマをして勇者の中身を変えてしまったのです。それで、勇者と魔王のパワーバランスが変わってしまったのです。」
なるほど、それで魔王が世界を滅ぼしてしまうわけか。つまり俺はこの世界で勇者に負ける必要があるわけだ。おそらくウリエルも弱そうな俺を見つけて、適任だと思ったに違いない。
「リョウスケさん僕はあなたの度量の深さと適応力の数値をみて異世界送りを検討しました。君ならば勇者と和平を結び世界を守ってくれると。」
はぁ、そんな大役が俺の務まるとは思えないな。
俺がここで現世に返してくれといったらどうなるんだ?
「この世界は滅びて、あなたの現世にまで影響を与えます。並列世界の関係は密で、一つが崩壊するとドミノ倒しのように全て無になってしまうのです。」
これは俺にしかできない仕事のようだし、すぐに返してくれないということは転生術は一度きりの大魔法であったりするのだろう。
断る理由がなくなった。現世に帰る条件とやらはお
そらく世界の平和を維持すること。雇用期間は勇者と魔王が最終決戦をするハルシャ暦3600年。それで間違い無いですか?
「本当に飲み込みが早いですね。しかし今はハルシャ暦600年、3000年もこの世界にいる必要があるんですよ?寂しく無いですか?」
今すぐに現世に返すことはできないんだろう?それに並行世界での時間の流れには差があることも想像がつく。
「おっしゃる通りです。あなたがこちらにいる間は現世の時間が進むことはありません。しかしあなたが向こうの世界に10日間行くとするとこちらでは1日の時が経っています。」
こちらでの生活が果てしなく長いことは理解できた。そういう時間レートであるならば、現世でも過ごせる時間は確保できそうだな。
「はい。あなたを転生させた神力が回復次第、意識の転換という形で移動させることができます。」
なら十分だ。この世界の平和のために3000年くらい魔王代理を務めようじゃないか!
ところで、いくつか疑問を精算したいのだが教えてくれるか?
「もちろんです。答えられる範囲で全てお教えします!」
まずは俺のいやリュークの精神はどこにいる?
「精神というより彼の心は一度世界を滅ぼしたとして大天使牢獄に投獄されています。世界を元に戻すためにザドキエル様が力をお使いになったのですから、当然の報いでしょう。」
そうだったのか、、俺はVRゲーム「悪役魔王と勇者」に出てくる、優しいが故に呪いを庇って人間不信に陥った魔王にひどく情を寄せていた。それにさっきの日記の兄バカっぷりにはどこか自分と重なるところがある。彼には幸せになって欲しかったな。
「VRゲームですか?妙ですね。まぁいいです。もちろんゲームとは考えずに一度きりの人生ですから、死なないでくださいね。」
わかりました。それで次にリュークの今までの生き方とこの世界について教えてください。
「どうやらそのゲームとやらで大まかな内容は知っているそうですね。ゲームでは魔王家についての描写はされていないようですし、お答えします。」
なるほど、ハルシャ暦600年現在では父が魔王であり、その兄弟で次代魔王を決めようとしているわけですね。それにリュークのこともなんとなくわかってきました。
「理解が早くて助かります。この日記のほかにこの世界に関することや便利な書物を数冊残しておいたので、忘れてしまったらご確認ください。」
あぁ、わかった。神力が溜まったら連絡してくれ、俺の現世へのホームシックが再発する前にな。
「心得ました。くれぐれもお元気で、またあいましょう。」
そう言い残し、真っ白だった視界は戻っていった。
それにしても現状は理解できたしやるべきことは決まっている。それなのに何やら腑に落ちない。
ウリエルに尻に敷かれているような感じがするし、本当に信じてもいいものなのか、それに現世に帰ることはできるのか、
不安は尽きないが、この世界にいる以上、今の家庭を蔑ろにすることはお兄ちゃんとしてできない。
今日はゆっくり休んで明日からシュヴィにも、他の家族にもリュークのような元気な姿をみせてやらなくてはいけないだろう。
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