第2話:一人の寂しさ

なんかちょっと緊張してきた。何も知らない世界で本当の兄を演じる?


できるはずがないんじゃない!!??


「お兄様?顔色が悪いですわ」


心配そうな表情を浮かべた少女が言って、使用人が俺の顔を覗き込む。


「もしかすると再発してしまったのかもしれません。一度自室へ戻りましょう。」


内心ホッとしていたら、急に全身に浮遊感ができた。


「リューク様失礼します。」


そういって彼女は俺を胸元で抱えて、3階まで飛んで行った。


風圧と乳圧で潰れてしまいそうだ。


どうかおやすみくださいと一言告げて足早に彼女は去っていった。


シュヴィと名乗る少女は俺が飛んでいったのを見届けた後、一人で1階に向かったそうだ。


幸にもようやく一人になれたわけである。落ち着いて状況を整理できる。


部屋はそこそこ広く、天蓋付きのベッドがあったりシャンデリアがあったり高級家具が目に入る。


ドアの先に窓と机があり、机の上には数冊の本と羽つきのペンが置いてあった。


おそらく日記であろう。

日記を開くと知らない文字が書いてあった、まあ異世界ですし。

じっくり眺めているとだんだん文字が日本語らしく変形してきた。


そこで文字が変形した驚きよりも書いてあることへの驚きが強かった。


ハルシャ暦340年 シュヴィーツ=ノヴァ=スリーア 誕生 かわいい

ハルシャ暦341年 シュヴィ 俺のことをお兄様と呼ぶ  かわいい

   、、 シュヴィ かわいい

   、、 、、

   、、 、、

   、、 、、


前の俺がとんでもない兄バカなのは置いておいて、ノヴァ=スリーアという家名に聞き覚えがあった。


これは現世で徹夜でクリアしたVRゲーム「悪役魔王と勇者」の魔王の家名じゃないか!


しかもリューク様って悪役魔王そのものじゃないか!!


やばい泣きそうだ。

俺ってVRゲームの悪役魔王に転生してしまったんだな。


しかし考えないようにしていたのだが現世の俺はやっぱり死んでしまったのだろうか?


転生してしまった以上もう現世には戻れないんだろうなと思うと、抑えていた涙が溢れる。


ケンタ、、、、サクヤ、、、、もう会えないんだな。


お母さん、お父さん、まだまだ愛され足りないよ、こんなところで一生涯を終えたくない。


涙が日記に落ち、紙が妙に光り始めた。


光はどんどん大きくなり、しばらくすると完全に辺りを覆ってしまった。


完全に視界が真っ白だ。


どこからか声が聞こえる。どこか懐かしい、それでいて甘美な響きだ。


「リョウスケ、、、リョウスケ、、」


空白からまるで天使を模した、大男が現れる。


「そう案ずるな。あなたの元いた世界の時間は止めておる。条件さえ満たせば返してやることもできる。」


大男は意外と柔和な顔立ちでいかにも好青年といった雰囲気だ。


して、さっきの発言はどう言う意図だったのだろうか。俺は現世で死んでこちらの世界に転生したわけではないと言うのか?それに条件さえ満たせばまた、あいつらに会えるのだろうか?


「すごく動揺していますよね?とりあえず座ってください。今お茶を淹れますから。」


そういって男は、、


「あっ、僕の名前はウリエル。ウリエルって呼んでください!」


おそらく心が読めるのだろう。


改めてウリエルはお茶を淹れ始めた。


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