30

あれからどれくらい経っただろうか。

時間はそこまで進んでいないようだけど、そわそわと過ごしている。


ロカは内密に動いているので、騒ぎを知らない招待客たちは集まっているらしい。

主役の一人である私は通された部屋で待機と言われているので、ヨウカが淹れてくれたお茶を飲むくらいしかないのだけど……


「何もしないというのも落ち着きませんよね。もう一度今日の確認をしますか?」

「もういい……」


嫌になるくらいには繰り返し確認した。


「少し外の空気を吸いましょうか。外と言っても兵が待機してる廊下ですけど」

「……」

「もう一杯飲みますか? ……もうそれしか選択がありません」

「うーん」


部屋の中をぐるりと見回し、飾られていた花瓶に目を止める。紫や黄色のそれは冥界の花だからなのか、綺麗なのにおどろおどろしさがある。


「そういえば、ロカ様に頼まれて永久花ドライフラワーを作ったことがあるんですよ」

「永久花?」

「私は初めて見る花でしたが、出先で手に入れたものだとかで大切そうにしていましたね」


なんだか意外だ。ロカはそういうのには無頓着かと思っていた。


「今度見せて貰おうかな」


ここでは珍しい花みたいだし、どんな思い出があるんだろう?

話題を振ってくれるヨウカと会話を続けていたが、少しお茶を飲みすぎたかもしれない。お手洗いに行くために部屋を出ることにする。


「……」


脱獄者のせいか、いつもより緊張感のある兵達が廊下に立っている。居心地は良くないので早く部屋に戻りたいなぁと思っていると、前から見知らぬ男性が近付いてきた。

その佇まいは優しい雰囲気がしていて、ロカと似たような年頃だろうか?

こちらに気付いて微笑まれる。


「おや? ヨウカさんとご一緒ということは……貴女がルウ様ですね」

「へ? ……はい」

「わー!別嬪さんだねぇ」


ヨウカが“クドウさん”だと教えてくれる。確か来賓の名簿リストの中にいた方だ。

「どうしてここにいらっしゃるんですか?」とヨウカが首を傾げている。


「えーっとね、僕の気のせいかもしれないけど何かあった? 晴れやかな日のはずなのに兵達が険しい顔してるからさ」

「……」

「ふふ、ルウ様は素直な方だね。僕はね、こう見えて口は堅い男だから隠さなくていいよ。ロカ様とも付き合いは長いし安心して。僕に手伝えることはないかな?」


事情を話しても問題のない方だとヨウカが耳打ちしてくれる。簡素に説明すると口をへの字に曲げて「あらら〜」と間延びした声が返ってきた。


「ロカ様ったら花嫁置いて飛び出しちゃったの? しょうがない人だねぇ」

「直ぐに戻ってきてくれると言っていました」

「 間に合わないと洒落にならないよ〜」


そんなことを言われても、困ってしまう。今は信じて待つしかないのだから。


「そんな顔しないでよ、虐めたいわけじゃないんだ」


整えていたはずの頭を掻きながらクドウは続ける。少し髪型が崩れてしまった。


「僕は平和主義者だけど、今回は平和のために戦いますかねぇ。ルウ様を泣かせるのが一番不穏そうですし。まぁ、任せて頂戴! 僕がロカ様を連れて帰ってあげる」


また後で、と言い残して踵を返したクドウを見てヨウカが「掴みどころのない方なんですよね」とぽつり。


うーん、たしかにそうだけど……、


「悪い人ではないと思う」


冥界ここにやって来て、こんな風に接してくれるのは珍しい。

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